2012年12月12日

余命別選挙制度(余命投票方式)・世代間格差

竹内は「余命別選挙制度」を提唱しています。これは、余命に応じて選挙区分け・議席配分をすることによって、投票権を余命に応じて重みをつけるという制度です。つまり若い人の1票を、高齢者の1票より重くできるのです。少子高齢化・人口減少の社会では、余命別選挙制度にしないと、世代間格差が広がってしまうと私は危惧しています。

子ども1人に4500万円の借金を押し付けている現状。
この子たちの行く先を明るいものにしなければならない。
現在の高齢者世代は、年金や医療保険を通じて政府から多くの給付を受けていますが、その財源は国の借金(国債)や現役世代が支払う税金です。そのツケは若者世代やこれから生まれてくる将来世代に膨大な国債残高として残されていくのです。

内閣府の「年次経済財政報告(平成17年)」は、高齢者世代が生涯にわたってどれだけの税金を支払い、どれだけの便益を受けたかを計算しています。それによれば、今の60代は差し引きで約1600万円分の純受益があったことになる。それに対し、今の30代が生涯に受ける便益を計算すると、実に約1700万円のマイナス(支払い超過)です。これから生まれてくる将来世代は多大な国債が残されるので、生涯で約4500万円分の借金返済に追われるという。これは「財政的幼児虐待」ともいわれています。

投票箱をあけると高齢者の票ばかり
(財)明るい選挙推進協会のデータ
急激な少子高齢化により歪んでしまった人口構成のもとでは、選挙で多くの票を投ずる高齢者に有利な政策が選ばれがちです。いわゆる「シルバー民主主義」です。国政選挙での投票箱を開けてみると、20代が投じた票はわずか9%で、50歳以上の票が過半数といった事態(左図)で、これは必ずしも若者が投票しないからだ、というわけではなくそもそも人口構成がそのくらい歪んでしまっているのです。

たとえば、消費税の税率5%アップで、政府は13.5兆円の追加税収を見込んでいます。消費税は高齢3経費(年金・医療・介護)に使われますが、財務省は、今回は「未来(子ども)への投資」も使途にいれたと宣伝しています。しかし、それはたったの0.7兆円。13.5兆円増税して、たった0.7兆円をもって「未来への投資」といっています。

「子ども手当が...」?。毎年毎年、年金50兆円をバラまくのに比べれば、子ども手当の2兆円など微々たるものです。「いまもらっている年金は若い時に積み立てたものだから...」?。いえいえ、いまの高齢者は、彼らが現役時代に払い込んだ社会保険料の2倍~4倍の年金を受け取っています。しかし、いまの現役世代には増税が待っているので、結局は「払い損」になるはずです。

もう、若さに応じて1票に格差をつけないとやっていけない段階かもしれません。国政選挙はその国のあり方、数十年後の行く末を決める選挙です。その選挙結果の影響を数十年にわたって受ける世代こそが、将来を見通して責任をもって投票する当事者でしょう。今後、50年、60年に渡って日本の将来を担う世代の声が議会に強く反映されるべきです。

余命別選挙制度の作り方
選挙区というと地理的な区分けが想定されています。各地方の選挙区から選出された地域代表を通じて、社会全体の利害を議会に反映させるシステム。しかし、社会全体の利害を汲み取るために、世代ごとに代表を選出してもいいでしょう。0歳~30代の「青年区」、40~50代の「中年区」、60代以上の「老年区」のように分け、世代ごとに代表を選べばよい。そうすれば若者世代の声は「青年区」選出の議員が代表できる。 これは年齢別選挙区というアイディアで井堀利宏・東京大学教授が提案してきた。

私は余命別選挙制度として、各世代選挙区に、その世代の平均余命(あと何年の寿命があるか)に応じて議席(議員数)を配分し、投票権と余命をリンクさせることを提案しています。たとえば、いま25歳の人の平均余命は57年で、55歳の平均余命29年の約2倍。そこで、20代選挙区には議席を多く配分し、その有権者1人当たり議席数が、50代選挙区の2倍になるようにする。若さに応じて1票に格差をつけるわけです。

「1票の格差」はどうなるのだ、という疑念にはこう答えます。移行期を除けば、生まれた年にかかわらず、どの人も生涯を通じて同じだけの投票力を持つので、生涯を通じた「投票価値の平等」は担保されます。また、若者の影響力が過大になるというのも誤解です。彼ら自身もやがては高齢者になるのだから、若者だけに都合の良い刹那的・利己的政策ばかりを支持するとは思えないし、むしろ、孫のいない高齢者のほうが利己的な投票行動に走る可能性のほうが大きいと考えられないでしょうか。

少子高齢化が進み歪んでしまった人口ピラミッドを、余命でウェイトづけしてみましょう。かつて日本が元気だったころの人口ピラミッドを再建できることにお気づきいただけると思います。


日経ビジネスオンラインにフルバージョンを書かせていただきました。そちらでは、「公共財としての子ども」という考え方も紹介しています。http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110531/220334/

ワールドビジネスサテライト(2012年5月31日放映)の特集でもコメントを紹介していただきました。
http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/feature/post_21365/

私は世代間対立ではなく、本当の意味で共に支えあう社会を強く望んでいます。

2012年6月25日

星海社「ザ・ジセダイ教官」インタビュー


星海社さん「ザ・ジセダイ教官 知は最高学府にある」にインタビューしていただきました。

早稲田大学で話題の講義! 
竹内幹先生に「実験経済学」を学ぶ

早稲田大学で話題の人気講義があると聞いた。講義名は「実験経済学」。経済学と言えば「データと数式」というイメージだが「実験」をするとはどういうことか? 早速、教鞭をとっている一橋大学の竹内幹先生にお話を伺いに行った。

つづきはコチラ→
【前半】http://ji-sedai.jp/special/kyokan/TakeuchiKan_01.html
【後半】http://ji-sedai.jp/special/kyokan/TakeuchiKan_02.html

2012年6月24日

「規約主義」:経済学は精巧なフィクションにすぎないのか(日本経済学会での討論)

「経済学は実在するのか"道具"にすぎないのか」というタイトルで話しました。日本経済学会2012年度春季大会(北海道大学)の特別セッションで、加藤淳子先生(東京大学)が「脳神経科学実験で人間の社会行動の何がわかるか」で発表なさったあとの討論をさせていただきました。

まず、神経経済学の問題関心・発見の例として、心の理論(Theory of Mind)と数当てゲームにおける推論深度の相関を紹介しました。本題はここからです。
 脳の活動を観察する神経経済学では、「コンテクストによって同じ行動(選択)によって意味が異なる」と言われることもありますが、経済学の「顕示選好理論(revealed preference)」アプローチからすれば、「so what(だから、なに)?」となりうる。なぜかというと...。経済学における意思決定の理論は、観察可能な選択結果(意思決定の結果の部分だけ)に立脚した理論であって、意思決定プロセスそのものを直接扱いはしないからです。そうした立場にたてば、「同じ行動でも意味が異なる」というのは本質でない、と。(こうきくと「過程を無視しちゃ意味ないだろう」と批判したくなりますが、これにはこれなりの理屈と意義があります。)
『科学と仮説』
つまり、選択結果が整合的に説明できればいい---できさえすればいい---という態度・立場ともなります。経済理論は、選択結果を整合的に説明できさえすればよい。したがって、整合性が損なわれないかぎり、「合理的経済人の仮定」だとか「効用最大化」とか、そういった経済理論の前提は必ずしも真である必要はないのです。
 経済理論は、それ自体が本当に世界のあるがままを記述しているわけではなく、我々人間が認識を深めるや議論をするための便宜的な「道具」にすぎない。思い出すのは、ポアンカレが『科学と仮説』のなかで述べた次のことばです(岩波文庫版p.76):

幾何学の公理は先天的総合判断でもないし、実験的事実でもない。それは規約である。

平行線が交わらないユークリッド幾何学だろうが、平行線など引けない非ユークリッド幾何学だろうが、どちらも正しい。もちろん、前者のほうが我々人間には極めてもっともらしいのですが、本当に正しいとは言い切れない。つまり、平行線公準は、ただの規約(取り決め)にすぎず、その正しさを云々することは無意味である。平行線があるという前提(規約)で話をすすめるか、あるいは、平行線は引けないという前提(規約)で話をすすめるか、どちらかを選べばいいだけだというのです。科学の多くは、このように選択が可能な規約のうち、もっともらしいものを選んで、それにのっとって理論を構築しているのだという考え。

「経済学の公理は先天的総合判断でもないし、実験的事実でもない。それは規約である。」
それでは経済学は真であるか、という問を何と思考すべきであろうか。[だが、]この問は何も意義を有しない。」
ポアンカレ『科学と仮説』をもじって引用。(幾何学→経済学)
同じように、「経済学の公理は先天的総合判断でもないし、実験的事実でもない。それは規約にすぎない。」といえるはずです。経済理論は本当の実体経済についての科学ではなくて、ある規約にのっとったひとつの壮大な物語だということ。その規約のひとつがたとえば「完全競争」の仮定でしょう。完全競争市場など存在しない、という批判に対しては、「いやこれはあくまで規約であって、仮にそうならば(as if)、どういったことが予想されるかを考えているだけだ」ということができます。
 幾何学ならばまだしも、社会科学で、それも経済政策といった人々の生活に関わりの深い学問分野で、「経済学は規約主義的である」といいきるのも、やや無責任だと私は思います。経済理論を学問として真剣に勉強していれば、誰もが一度は抱く疑問でしょう。ただ、人の意思決定プロセスは不可知なのだから、そのように割り切らざるをえないところがあったわけです。

規約主義をひっくりかえせるか
ただし、神経経済学の研究が明らかにしてきたように、選択プロセスについての神経基盤(neural basis)がみつかるとなれば、話は別です。選択プロセスが「規約」ではなく、実在するというのなら、経済学は規約主義をひっくりかえして、観察された現象については謙虚に向き合うべきだし、同時に、実在する科学理論だともっと自信をもっていいと思います。
 スライドではもう1点、経済学における「精密な計測」の意義を事例をもとに強調しました。それはまた別の機会に。

2012年5月21日

赤ちゃんはおんぶ お兄ちゃんはお話

妻が仕事で夜外出していたので、2人を寝付かせ。0歳娘を背中におんぶしながら、この日読んだのは『エルマーのぼうけん』です。絵本をみるだけでなく、最近はお話をきいて楽しむようになってきました。

トラに囲まれて怖くなったエルマーが、チューインガムをトラにあげ、「ずっと噛んでいると緑色になるよ」といって逃げ切るシーン。この日、特に息子が気に入ったエピソードです。自分も子どもの頃に楽しんだ物語を、息子も喜んでくれる。子どもと過ごす幸せを感じるひとときですね。

娘は、おんぶでよく寝ます。二人目なので、赤ちゃんにとって心地よい姿勢や揺れのリズムが、自然にとれるようになってきました。そのおかげで、おんぶをすると気持ちよさそうに寝てくれます。

ちなみに娘は、私と息子のやり取りを眺めるのが大好きで、私達2人の寸劇のようなごっこ遊びを見ては、足をバタバタさせて大喜びしてます。とても楽しいです。

2012年3月9日

第8章補論 アイトラッキングの可能性

齊藤誠・中川雅之(編著)『人間行動から考える地震リスクのマネジメント: 新しい社会制度を設計する』勁草書房。第8章(共著)とその補論(単著)を書かせていただきました。

齊藤誠・竹内幹「第8章 耐震マンションを好む人はどこを見ているか:アイトラッカーを用いた研究」、竹内幹「第8章補論 アイトラッキングの可能性」。

第8章補論の冒頭部分を以下引用します。ご興味がおありの方は本書を手にとってみていただければ幸いです。
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ここでは,第8章本論で用いたアイトラッキングと,その研究上の意義を整理したい.アイトラッキングとは,視線の動きを捕捉し,人や動物がどこを見ているのかを計測することである.1970年代から学術研究はさかんであるが,近年,ビジネスマーケティングでの応用事例も豊富である.商品陳列,カタログのレイアウト,新聞の見出しや記事,ウェブサイトデザイン,ブランド認知,食品栄養表示,テレビCMなど様々なものを見る人の視線の推移を分析し,その改善に役立てている.ビジネスだけでなく,航空パイロットの操縦法,外科医の技量測定,放射線医師の診断法の分析にも用いられている.
たとえば,ウェブデザインではGoogleのGolden Triangleがよく知られている.Google検索のユーザーがどのように検索結果を見るかを図示している(Nielsen, 2006).ユーザーの視線が左上の検索結果に集中していることが一目瞭然である.
最近のアイトラッキング機器は,ゴーグルをはめる必要がなく,被験者に違和感を与えないので,応用の幅も広がってきた.以下では,眼球運動の基礎や意思決定との関係にふれた上で,アイトラッキングが研究者にとってなぜ必要なのかについて述べたい.

2012年2月4日

第2子誕生で育児休業取得。その関連でトークしました。

第2子が生まれ、産後1ヶ月間に育児休業を取得。それに関連して、3つ「講演」しました。

1) NPO法人ファザーリング・ジャパン 2011年7月26日
特別講演「パパの育休が必要なコレだけの理由」をさせていただきました。父親の育児休業取得こそが、これから進むべき道だと訴えました。そのあと、FJの安藤さん司会でパネルトーク「「男性が育休取得できる社会にするために行政・企業・個人に必要なこと」にでました。

2)Creo(クレオ) 2011年12月4日
講演「パパの育児休業が必要な理由、実現への戦略」として、お話させていただきました。実際に育児休業をとろうと考えている男性が何名か聞きにきていらっしゃいました。ぜひ、すこしずつ職場や社会の固定観念を変えていきましょう。連続講座のタイトルは『今、なぜ大切!?「男性の子育て」』で、「育休取得を検討中の男性と夫の育休を臨む妻を対象に、制度の概要など取得の要点を体験者がアドバイス。」という趣旨でした。CreoさんとNPOファザーリング・ジャパンと杉並区教育委員会との共催。

3)国立市公民館 2012年2月4日
公民館主催の『連続講座 「働きマン」か「イクメン」か、男のワーク・ライフ・バランスを考える』の第2回で「父親の育児が日本を救う! ~育休体験をもとに~」として、お話しました。

多くのお父さんが、子育ての初動(新生児のとき)から育児にとりくめる、そして、とりくむようになる。それが当たり前になる日が、きっと来るでしょう。参考図書としては、育休の意義(そして、大変さ)を独自の視点で書いてくれた山田正人さんの『経産省の山田課長補佐、ただいま育休中』がおすすめ。子育て・育児休業や共働きに、興味ある方にはぜひ読んでほしいと思っています。