2020年4月14日

給付金(ヘリコプターマネー)は景気刺激になるのか


「納税者の皆様へ」

「納税者の皆様へ(Dear Taxpayer)」と始まり、ヘリコプターマネー(空(政府)からばらまかれるお金のこと)の給付を告げる米国政府からの手紙が私の手元にある。手紙には、私の口座に300ドルが振り込まれた旨が書いてあった。ジョージ・W・ブッシュ大統領が同年2月13日に署名した「2008年景気刺激法(Economic Stimulus Act of 2008)」のおかげだ。



この法律に則って、米政府はおよそ1億3000万世帯に合計940億ドル(現在価値で約12兆円)の税還付を行った。 1回だけとはいえ、1人当たり39000円~78000円(夫婦2人なら倍)の大きさである。

給付金は消費にまわるのか

関心となるのは、その使いみちである。給付金がしっかり消費にまわされれば景気刺激効果はあったといえる。しかし、ごく単純な経済モデルを想定すれば、給付金に景気刺激効果は全くない。給付金が、将来の増税で賄われるのであれば、"合理的な個人"は将来の増税を見越して全部貯蓄してしまうからだ。実際は、もちろんそうでなくて、いわば棚からぼたもちとして予期せぬ所得を得た個人は、消費を増やす傾向にあり、これが景気刺激になる。
2008年のヘリコプターマネーはどのくらい消費されたのだろうか。こうした政策効果の測定はふつうは難しい。というのも、ある個人の消費が5月に50ドル増えたとしても、それが給付金のおかげなのか、それとも、なにか給付金とは無関係な別の要因(たとえば、ガソリン価格の急騰など)によるものなのか、区別がつかない。
だから、最近はRCT(ランダム化比較実験)によって、政策の効果を測定しようという動きが強まるわけだ。RCTでは、ある集団に属する人たちを、ランダムに2種類にわける:給付金を受け取るグループAと、受け取れないグループBに。そうしてから、消費額の変化を比べれば良い。給付金を受けたグループAで平均50ドルの増加があり、そうでないグループBで平均30ドルの増加であれば、給付金による消費押しあげ効果は20ドル分ということになる。だが、実際の政策でこんなRCTはできやしない―――ふつうは。

給付タイミングをランダム化して効果検証

ところが、この給付金の素晴らしいところは、RCTに近いランダム化が行われていたことだ。各個人がもっている社会保障番号(SSN)の末尾2桁ごとに給付金の受け取り時期がずれていたのだ。末尾2桁はランダムに決まっているため、ある時期に、給付金をもらったグループとまだもらっていないグループの2つが併存していた。給付時期は表にあるように9グループにわけられ、毎週1グループで9週間にわたって給付が区切られていた。