2008年4月24日

男性が育児休業を取得するとき(経産省・山田さんのレクチャー)

一橋大学の学部生対象の講義に妻と一緒に参加しました。講師は、山田正人さん。経済産業省の課長補佐だった2004年から1年間の育児休業を取得し、その体験を『経産省の山田課長補佐、ただいま育休中』として出版された方です。ご著書には、、当時2歳だった双子のお子さんと、生まれたばかりのご次男の育児の様子が生き生きと綴られています。第一子の出産を間近に控えた妻に勧められて読んだところ、これから自分がどんな体験をするのか、リアルにイメージすることができました。本を通して語られる山田さんのメッセージにも、とてもとても共感しました。

講義を聞き、育児がいかに大変かあらためて分かりました。育児休業を取得した当時、山田さんはキャリア官僚として13年間の経験があり、部下もいました。「でも、育児では0年生」ということで、失敗もたくさんあったそうです。「育児"休業"といいますが、"休み"という感覚は全くありません」という言葉に大変さが表れています。

一方で、1年間、子供たちと向き合ったことで、「無償の愛」を知ったと山田さんは言います。また、他人に対する見方も優しくなったそうです。かつては40点の仕事しかできない部下に対して、100点満点を要求するような上司だったという山田さん。今は「この人は0から40点にまで成長したんだなあ。親御さんはどんな気持ちかなあ」と微笑ましい思いさえするそうです。何も分からない新生児をゼロから育てたことで、人間を見るときの幅に広がりが出たようです。

このお話を聞いて、ミシガン時代の指導教官(Yan Chen教授)を思い出しました。彼女は2人の子供を育てながら朝3時起きで研究を続けています。人並み外れた努力の結果、昨年、ミシガン大学で正教授になりました。私に対する指導は文字通り「仏」のようで、常に励ましに満ちたものでした。もともとの性格に加え、育児経験が優しさにつながっていたのかもしれません。

講義の後、山田さんからご著書にサイン(写真)をいただきました。私も先輩パパを見習ってがんばりたいと思います!

2008年4月22日

クリスティーズのオークション・プレビューを見学

クリスティーズのオークション・プレビューを見てきました。アルマーニ/銀座タワーのイベントホールには、20余の作品が展示してありました。昨夏、ミシガン大学の美術館で見た澤田知子さんの写真や、有名な草間弥生さんの作品などが予想落札価格と共に展示されていました。

これらは、5月末に香港で開かれる「アジア現代アート」オークションの出品作の一部。招待状を送って下さったM様に、オークショニア(競売人)の役割について教えていただきました。そのお話から、各作品が高い値で落札されるように、様々な工夫や演出をするということがわかりました。また、アジア現代美術の市場は今が伸び盛りで、決まった価格帯(相場)がまだ確立していないため、オークションの落札価格が各作家の今後の評価に影響を与えるそうです。オークション・ハウスは新しい市場形成に大きな役割を負っているんですね。

私の研究分野のひとつは、オークション・メカニズムです。普段はコンピュータと向き合って、効率的なオークションの仕組みを勉強しています。オークショニアとビッダー(入札者)の間に心理的な駆け引きのようなものがあると知り、大変興味深かったです。

今回の展示作品の予想落札価格は、私には手が届かないものでした。普通に暮らしていたら、足を踏み入れる機会はなかったでしょう。招待状を送って下さったM様に感謝! です。

2008年4月19日

腎臓交換(Kidney exchange)移植ネットワーク

ドミノ型生体腎移植やドナー交換腎移植のような「腎臓交換」を進めるためのネットワーク構想があります。カリフォルニア工科大学で開かれた 学会 で、Utku Unver教授がそのネットワークの効率的な運用方法を発表しました---長期的に最も多くの患者を救うためには、どの時点で何組の腎移植ペア(ドナー&レシピアント)を成立させていくべきなのかを計算しています。

余談:CV(履歴書)にあるとおり、Assistant Professor(助教授 or 専任講師レベル)だった彼ですが、去年の11月には准教授をとびこして、いきなり Full Professor(正教授)への昇格が決まっていたんですね(ここにはなんともすごい事情があったわけで、いやはや、まいりました)。

私の車でディナー会場に向かう途中、ドナー交換が日本では進みにくい状況を話しながら、私が「公平性の問題もあるようで、移植を待っている人が多くいるのに、一部だけ抜け駆けをして腎移植を受けたりするのは不公平だとかなんとか(A案)」と話すと、Utkuさんは...

 「ありえない!? だって、パレート改善じゃないのか」と驚いていました。「いやーそれが、なんていうか、日本の社会規範なんですよねーw」というと、一緒に乗っていたOnur Kesten氏(カーネギーメロン大)も「1人がbetter offになる(得する)くらいなら、みんなでworse-offでいる(損しつづける)ことをを選ぶんだよね」とフォローしてくれました。Exactly! うーむ、よくご存知で。

もちろん、上のA案B案に書かれているように、いろいろと問題はありますけど、みんなでworse-offは当たっています。ちなみに参考ですが、ドナー交換腎移植に関する日本移植学会の見解では、

(2)しかし、ドナー交換腎移植は医学的・倫理的に大きな問題を含むものであり、個別の事例として各施設の倫理審査のもとに行われるべきものである。したがって、ドナー交換ネットワークなどの「社会的なシステム」によりドナー交換腎移植を推進すべきものではない。

こちらの記事に紹介されているようなネットワークの構築は日本では難しそうです:山陽新聞の記事「ドナー交換 「生体」際限なく拡大