アメリカ大統領選挙:敗北宣言かくあるべし。
1973年に帰国後、1983年から下院議員、つづいて1987年に上院議員となり、亡くなる日まで32年間現職議員を務めた。
トランプ氏の資質について、マケイン氏は2016年の選挙前から懐疑的であった。また、オバマ大統領の健康保険制度(いわゆる、オバマケア)を、2017年にトランプ政権が改廃する法案を議会に諮った際には、マケイン上院議員は造反、反対票を投じている。彼の反対票があり、法案は49対51で否決された。
マケイン氏は、2008年に共和党候補として大統領選挙に出馬し、民主党のオバマ候補と選挙戦を争う。オバマ候補の当選が決まった夜、マケイン氏は敗北宣言の演説を行った。そこで彼は、オバマ候補を讃え、アメリカ初の黒人の大統領誕生を祝い、そして、共和党か民主党かを問わず、アメリカ国民としての団結を強く訴えかけた。その演説には、心をうつものがある。
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以下は2008年11月4日の夜、オバマ大統領誕生が決まったあとに行われた演説である。
皆さん、私たちの長い旅はついに終わりを迎えました。アメリカの人々は決断をし、それもはっきりと決断を示したのです[=オバマ候補が当選したこと]。さきほど、私はバラク・オバマ上院議員に電話をし、[会場からブーイング、それを制するマケイン氏]、その電話のなかで、私たち2人ともが愛するこの国の次期大統領に、オバマ上院議員が選出されたことを祝福する栄誉に浴しました。
この選挙戦のように長く困難な戦いにおいて、オバマ候補の成功をみることで、私は、彼の能力と忍耐力に敬意を感じざるを得ません。なによりも私がオバマ候補を称賛する点は、かつてアメリカの大統領選挙では影響力などないと信じ込まされていた多くのアメリカ人[黒人たち]に希望をあたえ、この選挙戦で勝利したことにあります。
黒人がついに大統領に選ばれた歴史的な選挙です
今回の選挙は、[これまで虐げられてきた黒人がついに大統領に選ばれたという点で]歴史的な選挙であります。この選挙は、アフリカ系アメリカ人にとって特別な意味を持つはずで、今夜、彼らの尊厳が現実のものとなったのです。
アメリカという国では、産業を持つものと、産業を興そうとする意志を持つ者すべてに、機会が提供されていると私は信じてきました。オバマ上院議員もそれを信じています。しかし、奴隷制という古い時代の不正義と、一部の人々に公民権を認めずにいたという、私たちの国の汚点から、長い道のりをたどってきたにもかかわらず、それらの記憶と傷は決して癒やされていないのです。
一世紀前、セオドア・ルーズベルト大統領が、黒人であるブッカー・T・ワシントンをホワイトハウスに招待して食事をしたことで、多くの方面から怒りの声があがったのでした。今日のアメリカは、当時の残酷で高慢な偏見に満ちた100年前のアメリカとは全く異なるものになりました。アフリカ系アメリカ人がアメリカの大統領に選出されたことほど、その証拠となるものはありません。地球上で最も偉大な国であるこの国においては、だれかがその公民権を制限される理由など、もう存在させてはならないのです。
オバマ上院議員は、彼自身と彼の国のために偉大なことを成し遂げました。彼に拍手を送ると同時に、彼の最愛の祖母がこの日を見るまえになくなったことに哀悼の意を表します。私たちは、彼女が主の御許にあることを信じていますし、彼女は孫をなによりも誇りに思っていることでしょう。
オバマ上院議員と私との間には意見の相違があり、それについて議論を重ねてきました。そして、彼の議論はやはり優勢だったのです。もちろん、私たちの間には多くの違いが依然として残っています。私たちの国は困難な時代を迎えています。それでも、私たちが直面する多くの課題を抱えながらも、オバマ議員がアメリカ大統領の職務を果たせるために、私の力のすべてを尽くすことを彼に誓います。
私を支持してくれたすべてのアメリカ人にお願いしたい。私とともに、オバマ上院議員の当選を祝福し、そして、次の大統領となる彼のために、私たちの善意と真摯な努力を結集してほしいのです。そうすることで、私たちが団結する道を見つけ、必要な妥協点を見つけ、私たちの相違点を埋め、国の繁栄を取り戻し、危険な世界のなかでも国の安全を守りぬく。そして、子や孫の世代に、より良い国を、私たちが受け継いだものよりももっと良い国を残そうではありませんか。
我々はみな同じアメリカ人なのです
我々の違いが何であれ、我々はみな同じアメリカ人です。これ以上の意味を持つ仲間は他にいないと私が言ったら、どうか私のその言葉を信じてください。
今夜は失望を感じることでしょう。しかし、明日はそれを乗り越えて、国を再び動かすために一致団結しなければなりません。私たちはこの選挙戦を戦いましたーー私たちは全力で戦いぬいたのです。そして、失敗したとはいえ、失敗は私のせいであり、みなさんのせいではありません。
皆さんのご支援と、私のためにしてくれたすべてのことに、心から感謝しています。結果が違っていればよかったとはたしかに思います、みなさん。最初から困難な道のりであったにもかかわらず、あなた方の支援と友情は決して揺らぎませんでした。どれほど深く恩義を感じているか、言葉では言い表せません。
特に、妻のシンディ、子供たち、親愛なる母、そして家族全員、そしてこの長い選挙戦の浮き沈みを乗り越えて私の側に立ってくれた多くの旧友、親愛なる友人たちに感謝しています。私は幸運に恵まれた人間だと思いますが、皆さんからの愛と励ましに代わる僥倖はありません。本当にありがとう。
選挙運動は候補者自身よりも候補者の家族の方が大変なことが多く、今回の選挙運動も例外ではありませんでした。私がお返しにできるのは愛情と感謝の気持ちと、これからの平穏な日々を約束することだけです。
副大統領候補としてともに選挙戦を戦ってくれたサラ・ペイリン州知事にももちろん感謝しています。[中略]リック・デイビス、スティーブ・シュミット、マーク・サルターをはじめとする選挙運動の仲間、そして、現代で最も困難な選挙戦と思われた時期に、何ヶ月にもわたって、懸命に勇敢に戦ってくれたボランティアの皆さん、本当にありがとうございました。たとえ選挙に負けようとも、私にとっては、あなた方からの信頼と友情以上の意味を持つものはありません。
この選挙に勝つために、これ以上何ができたかはわかりません。それは他の人の評価に委ねます。候補者は誰でも間違いを犯しますし、私も間違いを犯したはずです。しかし、すこしの後悔もありません。
今回の選挙戦は私の人生の中で名誉あるものでした。そして、私の心は、この経験と、オバマ上院議員と旧友のジョー・バイデン上院議員が、次の4年間を導く栄誉を持つべきだと決定する前に、私に公平な聴聞会を与えてくれたアメリカ国民に感謝の気持ちで一杯です。
選挙に負けた今夜も、私は国に忠実なひとりの下僕である
半世紀にわたって、この国に奉仕する特別な機会を与えてくれた運命を後悔するようでは、私はその名にふさわしいアメリカ人とは言えないでしょう。今日まで、私は私が愛する国の最高の役職・大統領の候補者でした。そして今夜も、私は国に忠実なひとりの下僕であり続けます。それはみなにとっても十分な祝福でしょう。そして、私は地元アリゾナの人々に感謝します。
今夜。今日のこの夜、どんな夜よりも、私の心は、わが国への愛で満たされています。私を支持していたとしても、オバマ議員を支持していたとしても、分け隔てなく、国民ひとりひとりへの愛を感じています。私にとって、昨日までの対立相手であり、私の大統領となる人に、神のご加護を祈ります。
そして私は、この選挙戦で何度も言っているように、現在の困難に絶望するのではなく、アメリカの将来性と偉大さを常に信じるように、すべてのアメリカ人に呼びかけたいのです。
アメリカ人は決して諦めません。我々は決して屈しません。我々は決して歴史から逃れようとはしません。我々が歴史となり歴史を作るのです。
本当にありがとう、みなさんに神のご加護がありますように、そしてアメリカに神のご加護がありますように! (2008年11月4日)
ジョン・シドニー・マケイン3世(John Sidney McCain III、1936年8月29日生ー2018年8月25日没)。