齊藤誠・竹内幹「第8章 耐震マンションを好む人はどこを見ているか:アイトラッカーを用いた研究」、竹内幹「第8章補論 アイトラッキングの可能性」。
第8章補論の冒頭部分を以下引用します。ご興味がおありの方は本書を手にとってみていただければ幸いです。
-----
ここでは,第8章本論で用いたアイトラッキングと,その研究上の意義を整理したい.アイトラッキングとは,視線の動きを捕捉し,人や動物がどこを見ているのかを計測することである.1970年代から学術研究はさかんであるが,近年,ビジネスマーケティングでの応用事例も豊富である.商品陳列,カタログのレイアウト,新聞の見出しや記事,ウェブサイトデザイン,ブランド認知,食品栄養表示,テレビCMなど様々なものを見る人の視線の推移を分析し,その改善に役立てている.ビジネスだけでなく,航空パイロットの操縦法,外科医の技量測定,放射線医師の診断法の分析にも用いられている.
たとえば,ウェブデザインではGoogleのGolden Triangleがよく知られている.Google検索のユーザーがどのように検索結果を見るかを図示している(Nielsen, 2006).ユーザーの視線が左上の検索結果に集中していることが一目瞭然である.
最近のアイトラッキング機器は,ゴーグルをはめる必要がなく,被験者に違和感を与えないので,応用の幅も広がってきた.以下では,眼球運動の基礎や意思決定との関係にふれた上で,アイトラッキングが研究者にとってなぜ必要なのかについて述べたい.
眼球運動(eye movement)
現在の眼球運動研究は19世紀末にさかのぼる.フランスの眼科医Javal(1879)が鏡を本の片側に置き,その本を黙読する人の眼球運動を観察したのが最初とされる.その結果、文章を読んでいる間,われわれ自身は文字を連続的に読んでいるつもりでも,われわれの眼は文字を滑るように見ているわけではない,ということがわかった.実はわれわれの視点は1箇所にごく短い時間とどまったあと,約7~8文字分を高速で跳躍し,またそこにとどまるということを小刻みに繰り返している .
20世紀前半までには,このような研究が重ねられることで眼球運動に関する理解がすすんだ.眼球運動は,注視(fixation)とサッカード(saccade )という2つの要素で成り立っていることがわかった.注視とは,視点が1箇所に固定されることをさす.そして,ある注視から次の注視まで視点は高速で移動する.それをサッカードという. また,サッカード中は視覚感度が低下すること(saccade suppression)も観察された .
左図はそうした眼球運動を表している.注視した場所は○印で,サッカードは直線で表されている.視点をゆっくりうつしながら部屋を見渡したつもりでも,眼球運動を観察すれば,視点が「1箇所に止まっては,すぐに次の注視点に跳躍し,そこに短い間だけ止まる」という動作を繰り返しているのがわかる.文字を読むときと,風景を見るときでは,注視やサッカードの長さが若干異なる.文字を読む時は,注視が1回あたり約200~250ミリ秒(0.2~0.25秒)持続し,注視と注視の間に,約30ミリ秒間のサッカードがおき,眼球を約2°(アルファベッド約7文字分)移動させている.それに対し,風景を見る場合は,全体を大きく見渡すようになるので,注視は300ミリ秒前後持続し,サッカードも40~50ミリ秒間続き,約5°の眼球運動による視点移動がおきる.このように眼球運動や視点移動を計測することをアイトラッキング(eye tracking)という.
注意と眼球運動の関係
視点と注意(attention)は密接に関連している。(つづきは、書籍をお求めください)
0 件のコメント:
コメントを投稿