2008年12月7日

信州大学 意思決定理論セミナーで発表

西村直子先生(信州大学)と西村幸浩先生(横浜国立大学)からお誘いを受けて意思決定理論に関するセミナー発表に行ってきました。

ここでは若手の意思決定理論の研究者の皆さんに会うことができました。研究者はふだん、日本の全国各地の大学で研究・教育に携わっているため、同世代で同分野の人と顔を合わせる機会はほとんどありません。とても貴重な週末を過ごすことができました。

2008年11月14日

ESA@Tucsonで発表

4回目のESA@アリゾナ発表。実験経済学を始めた功績でノーベル記念経済学賞をもらった Vernon Smith さんが創設したのがこのESA (Economic Science Association) です。2007年2006年のそれぞれのブログエントリでだいたい書いたとおりですので、そちらをご参照ください。

今回の目玉は、私のミシガン大学での指導教官Yanと、さらにYanの指導教官であるJohnもいたので、3人で記念写真をとってもらったことでしょう。かつてのオフィスメートにシャッターを押してもらって、彼がひとこと "Hmm, generations." 私も2人のようなビッグになりたいです。

2008年10月31日

岐阜聖徳学園大学でセミナー発表

大阪大学での翌日、蔵研也先生・松葉敬文先生・佐藤淳先生のセミナーで発表させていただきました。先生方はテストステロン(男性ホルモン)と経済行動の関係を調べるとても面白い研究をされています。

蔵先生はご著書『リバタリアン宣言』でお書きになっている通り、リバタリアン。たとえば、政府は人々のモラルの番人ではないとするのがリバタリアンですが、保守派とも進歩派(リベラル)とも異なるため、理解を得るのはなかなか難しいようです。

社会問題に対して、すぐに「"クニガキチント"規制しないからだめなんだ」という他力本願で自分はなにもしない人たちがたくさんいますね。これじゃいかんだろうと。私も全く同感です。私の考え方も部分的にリバタリアンと重なるところがあるため、お話はとても刺激的でした。蔵先生のご著書はとてもわかりやすく面白いので、ぜひ読んでみてください。

2008年10月30日

大阪大学でセミナー発表

筒井義郎先生主催のセミナーでアイ・トラッカーを使ったオークション実験について発表させていただきました。オークション参加者の意思決定を、彼らの視線の動きから解明を試みています。

筒井先生は今年から行動経済学の講義を開講されたそうです。行動経済学は注目を集めている分野ですが、講義を設けている大学はまだ少ないでしょう。阪大の学生さんたちはとても恵まれた環境にあるなと思いました。

2008年10月26日

至福のとき:育児のしあわせ

息子が笑うたびに「かわいい、あー、かわいいなあ」と言ってしまいます。おそらく1日50回は言っているでしょう。これまで色んな人が赤ちゃんはかわいいというのを聞いてきて、頭ではわかっていたのですが、ここまでかわいく感じるとは予想しませんでしたね。頭がジーンとしびれてきます。

育児はお母さんが一番とか言われたりもしますが、「いや、それはちがう」といいたいですね。父親でも、生まれた当初から育児をしていれば、子どもはなついてくれると思います。母親と同じ頻度で、オムツを換え、お風呂にいれ、抱っこ寝かしつけをしていて2ヶ月も経った頃、赤ちゃんがニッコリ笑ってくれた時は、本当に至福を感じました。私にとっても、はじめの頃の育児+家事はかなり大変でしたが、最近の息子が声をだして笑いかけてくれる瞬間は本当にかけがえのない時間です。

2008年10月25日

赤ちゃんに優しいお出かけ先:新丸ビル

知人に就職祝いのプレゼントを買うため、新丸ビルに行きました。

生後5ヶ月の息子を連れて行ったのですが、5階に多目的トイレと授乳室があり、とてもよかったです。

古いビルだと、オムツ交換台が女子トイレ内に設置されていて、男性の私には利用しにくいです。おっぱいは妻、オムツ換えは私の担当なので、オムツ交換台が女性用トイレにあるのはちょっと困りますね。新丸ビルは、さすが新しいビルだけあって、男女ともに利用できる多目的トイレと授乳室のそれぞれにオムツ交換台がありました。授乳室はスペースが広く、妻も落ち着いて授乳ができると評価していました。

父親も育児をするのが当たり前の時代、男性も利用しやすいこうした施設があるのは、いいですね!

2008年10月2日

経済セミナーに書きました:実験経済学特集

経済セミナー10月号に寄稿しました。特集「実験経済学がわかる」のなかの「教室実験をやってみよう!:ゲーム理論への誘い」という5ページの記事です。いわゆる"美人"投票ゲーム(p-beauty contest)の教室実験について、「Level-k思考」を紹介しつつ、まとめました。一橋大学で私が行った教室実験の結果も紹介してあります。どうぞ書店でお買い求めください。
 経セミの表紙に自分の名前が書かれているのは、なかなかうれしいですね。

2008年9月12日

香港科学技術大学でセミナー発表

香港科学技術大学でセミナー発表しました。組み合わせオークションに関する経済実験とアイトラック分析を加えた研究について話しました。担当の Hossain助教授からは以前に突然メールをいただき「うちの大学でジョブセミナー(助教授の採用試験を兼ねた研究発表)をしないか」とのお誘いを受けました。すでに一橋大学への就職が決まっており、子どもも日本で生まれる予定でしたのでお断りしましたが、貴重な機会なのでセミナー発表はさせていただくことにしました。
 香港科学技術大学は、1991年設立の新しい大学ですが、経済学部の世界ランキングではいつも70位くらい、アジアでは1位です。発表の後は、同大学の奥井先生、田中先生に美味しい海鮮レストランに連れて行っていただきました。大きな生け簀から海鮮を選んで料理してもらいました。30cmはある蝦蛄(しゃこ)などがとても美味しかったし、珍しかったです。ご馳走様でした!

2008年9月8日

オブジェクト指向型経済

少し前から、派遣や請負労働が問題視されるようになってきました。NHKの「フリーター漂流」という番組には、まるで機械のパーツのように使い捨てにされる請負労働者の姿が描かれていました。

この番組を見て思い出したのは、1995年に「オブジェクト指向型経済」という言葉を思いついたことです。企業経営や事業の遂行において、すべての業務が細分化され、ひとつひとつがアウトソーシングによってパーツ化されることをイメージした言葉です。会社という母体はなくなって、本社には経営部分(持ち株会社)だけが残る。そして、いままでの会社というものは、本体とは完全に切り離された部署(パーツ=オブジェクト)の寄せ集めになるんだろうなという予想から思いついた言葉。業務をどんどん細分化していけば、社員もいらないし、仕事を全部アウトソーシング・外部委託できるはず。派遣社員、業務請負だけで企業を動かすことも可能になってしまうのかなと考えたわけです。

95年当時、Visual Basic というオブジェクト指向のコンピュータプログラムを使ってみて得られた実感と、ミクロ経済学をまじめに勉強しはじめて得られた直感から、作ってみた言葉でした。オブジェクト指向プログラムには本体部分がなく、個別の機能を備えたパーツ(オブジェクト)の集合体で全体が構成されるようなコンピュータ言語だということです(専門じゃないんで不確かですが)。

あれから13年たち、アメリカから帰って日本で働き始めてみると、当時は「思いつき」のつもりだった言葉が現実味を帯びてきたのかなと感じます。

2008年9月4日

くるみんマーク:大学も取得しましょう

「くるみんマーク」をご存知ですか。子育てと仕事の両立を応援する企業・事業体が取得することができます。次世代育成支援対策推進法にもとづき、厚生労働省が審査しています。ソニー、ホンダをはじめ、日産、富士通、パナソニックなど合計366社が「くるみん」を取得しました。名刺に「くるみん」をつけている企業もでてきました(下写真)。

取得にあたって条件がいくつかありますが、注目は、男性の育児休業取得実績が含まれていることです。

企業が「くるみんマーク」を取得するのは、男女ともに働きやすい職場だということをアピールし、良い人材を引き付けるためでしょう。イメージアップのために、一橋大学も「くるみんマーク」を取得したらいかがでしょうか。もし男性の育児休業取得実績がなければ、私が育児休業申請できますし。

スタンフォード大学も同様の理由で大学内託児所(定員100名)をオープンさせました。ハーバード大学も優秀な女性教授陣をリクルートすることを目標に2006年から8億円のプロジェクトを始め、定員100名の託児所を作ることにしています。関連記事はこちら→スタンフォード大学内に保育園がオープン

2008年8月23日

GQ JAPANに載りました:「ニッポンの最先端は、ここにあります。」

GQ JAPAN』の10月号特集「ニッポンの最先端は、ここにあります。」に載せていただきました。私の研究室の写真が1ページ全面に使われています。「"実験経済学"が経済学を塗り替える」と書いていただいた通り、これからもがんばります。"クール"の代名詞ともなっている『GQ』にこんなに大きく登場できて、光栄です。
特集では「宇宙開発からアンドロイド、次世代建築、アートまで」の各分野の若手9人が紹介されていて、説明は...
「日本の最先端を走る若手の旗手たち。
最先端を行くことは新しい道を築くことでもある。これから海図なき航海に挑戦しようとする若き無名の旗手たち、ブレイク寸前の初登場。」

かっこいいなあ。私は二人目に登場です。
どうもありがとうございます。
目次にも載せていただいてます→

2008年7月19日

国際女性ビジネス会議に息子と参加

国際女性ビジネス会議で妻が講師をするので、私も息子を連れていってきました。今年で13回目となるこの会議は、日本でビジネスウーマンが集まる最大級のイベント。1000人近くが参加した今年は「ダイバーシティ:多様性が生み出す経済成長」がテーマです。

私もミシガン大学にいたときは、大学がコアバリューとして「多様性」を掲げていたので、この言葉をいたるところで見聞きしました。多様性とは、性別だけでなく、人種・年齢・国籍・文化・障がい・兵役・性的指向の多様性を指していました。一方、日本でダイバーシティというと、女性"活用"の言い換えでしかないようです。

この会議がちがったは、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)のセッションもあったことです。外国出身の参加者もいたりと、日本にいながら、多様性を感じることのできる貴重な機会でした。

上の写真は、主催者の佐々木かをり氏と私の息子。昔は、「ビジネス」+「女性」の会議というと、伝統的な日本企業の人たちに笑われたそうです。そんなころから国際女性ビジネス会議を続けてきた佐々木さんはかっこいいと思います。たくさんの方にかわいいと声をかけていただいて、息子もごきげんでした。

2008年7月10日

育児便利アイテム

トンガフランス製の抱っこひものトンガ(Tonga)。体重を少し受けてくれるので、手首が楽になります。最近はスリングが大活躍ですが、このトンガもかさばらないので、持ち歩きにとても便利です。

単衣(ひとえ)息子が生まれて初めて着た服が写真の「ひとえ」。とても便利なので退院前に山王病院で買ってきました。厚手のタオル地のローブの内側にガーゼ肌着が縫い付けられています。着せるのも、紐一本で意外としっかりとまります。アマゾンにも売っていないし、よほど珍しいのでしょうか、区の助産師さんも見たことがなかったそうです。とても便利なので、超おすすめです。

2008年7月6日

ハル子@アニメ・エキスポ・ロサンゼルス

アニメ・エキスポがロス市内で開催されているというので、行ってきました。日本のアニメをアメリカに広めようと日本アニメーション振興会が1992年から毎年開催するイベントです。主催者の発表によると参加者は43000人(会期4日間延べ10万人以上の動員)だったそうです。声優さんや監督など日本からのゲストも多く、中川翔子(しょこたん)も来ていました。

コスプレで来る人が多いです。『FLCL(フリクリ)』のハル子がいたので、一緒に写真をとってもらいました(ギターでぶん殴ってはくれませんけど)。イベントのなかで、一番人気があったのが"Whose line is it Anime?"でした。開場前から何百人もの列があり、部屋は満員で、私は入れませんでした。アニメの役になりきった上で、パロディをするようです(アニオタの米国人に聞いてみます)。

 初音ミクもいたので、一緒に写ってもらいました。わざわざ車で4時間もかけて友達3人で来たそうです。彼女たちの住んでいる町をあとで調べると、なんと人口5万人に満たない小さな田舎町。ここまで日本のソフトパワーが浸透しているとは驚きです。

2008年7月3日

カメレール博士のゼミで発表

ESA学会発表の後、廊下にいたコリン・キャメラー(カメレール博士)に発表スライドをみせると、ゼミに呼んでくれて1時間ほど発表することができました。その場に、p-beauty contest (AER1995)でも有名な Rosemarie Nagel もいて、アイトラックを使った研究の最新状況について話をしました。学術誌に載る前の段階の研究(ワーキングペーパー)について、研究者と直接意見交換することで、自分自身の研究も加速します。学術誌に載った論文を読んでいるだけでは絶対に最新の研究に追いつけないので、学会などに行って、研究状況のクチコミに触れることは極めて重要です。たとえてみれば、雑誌をみているだけでは、流行を"追いかける"ことはできても、決して、流行を"創る"ことなんてできないのと同じでしょうか。

2008年7月2日

400万円払うから、なにもしないで下さい(金になるオークション理論)

ある教授のところに電話があった「今度の周波数帯オークションで我が社の入札戦略のアドバイザーになってくれないか」と。教授は忙しかったので、「最近は時間がないから断るよ」ということでその話は流れた。ところが翌日、同じ会社から電話があり「うちのアドバイザーになれないというのは、わかった。その代わり、今度のオークションが行われる際、他の会社のアドバイザーもしないでいただきたい」と妙なことを伝えた後、「それを約束してくれるなら、あなたに4万ドル(410万円)支払う用意がある」というオファーをしたとのこと。教授は、アドバイジングをする予定はもとからなかったので、オファーを受け入れたそうです。いやはや、「400万円払うから、なにもしないでくれ」→「はい、わかりました」 額に汗して年間400万円稼ぐ人もいれば、なにもしないことでお金をもらえる人もいるんですね。

(追記)そのくらいオークション理論は「金になる」のです。

2008年7月1日

日経ビジネスアソシエに書きました(カメレール博士に聞く)

今日発売の最新号では、特集「行動経済学でわかった! 勝てるビジネス心理術」となっています。その冒頭のインタビュー記事(コリン・カメレール教授インタビュー)を書きました。

行動経済学の特集を組まれるというので、白金の日経BP社で編集部の方々と一度お話をする機会がありました。この分野をプロモートしたい私としても、一流の本物の学者を出してほしい! と思い、「コリン・カメレール教授にインタビューしましょう!」と提案。ということで、コリンに電話すると、行動経済学や神経経済学・ニューロエコノミクスについて40分ぐらい話してくれました。

担当デスクの方が、行動経済学についてとてもよくご存じだったので、特集はかなり詳しく面白いです! ぜひお買い求めになってご覧ください! (追記:インタビューはオンラインにアップされました。NBオンライン「脳と行動の関係を解明、より良い選択を目指す」)

2008年6月28日

ESA@Caltechで発表

カリフォルニア工科大学で開かれたESA(実験経済学会)で発表しました。今回は早稲田大学の竹内あいさんにお願いして、アイトラック機でデータをとっていただきました。コリン(カメレール、Colin Camerer教授)に見せると「それって、おれたちが来年やろうとしてたことじゃん」と調子のいいことを言ってました。コリンに追いつかれる前に論文を書きあげなければ。左の写真は、アイトラック機による分析結果の一部です(早稲田大学・竹内さんの分析と出力)。実験参加者がスクリーンのどこを見ながら意思決定をしているか分析することができます。リアルタイムで、視線を記録することもできれば、左写真にあるように、長い間視線がとどまっていた場所(Hot Spot)がどこかも教えてくれます。赤いところがその部分、ここを見ながら色々と考えて意思決定にいたったということでしょう。別名、heat map とも呼ばれているようです。 一橋の宣伝をするために、HITOTSUBASHIのTシャツを来て発表しました(セッション参加者は30名ちょっと)。日本からの参加者は東大の計盛さんと私の二人でした。ゴシップですが、オークション分野でのビジネスチャンスは大きいようです。→竹内幹の日記: 400万円払うから、なにもしないで下さい

2008年5月20日

日経ビジネスアソシエに載りました

日経ビジネスアソシエ2008年6月3日号(5月20日発売)に載せていただきました。特集記事「ロジカルシンキング」で時間の効率的な使い方について"経済学の知識を活用した発想"をお話しました(35頁)。カメラマンにたくさん写真を撮られたのは初めてで、貴重な体験でした。

2008年5月11日

山王病院の産後指導プログラム

妻が出産した山王病院では、育児について色々なことを教わりました。出産の翌日には病室に助産師さんが来て、オムツ換えのやり方とミルクの作り方、授乳のやり方を個別指導してくれます(写真)。

特にありがたかったのが授乳指導です。おっぱいマッサージに始まり、赤ちゃんの抱き方、口の開け方、乳頭保護器の使い方まで1日数回の授乳時に、助産師さんが30分以上も付きっきりで教えてくれます。私も、助産師さんにならって、乳房をマッサージしたり、足をくすぐって赤ちゃんを起こしたりと、妻をサポートできました。退院後も授乳時にはうまく協力することができています。

沐浴も習いました(写真)。お湯に入ったとたん、とても気持ち良さそうな顔をするので、こちらも嬉しくなりました。

初めて子どもを持った私と妻にとって、この産後指導は大変ありがたいものでした。赤ちゃんの特徴を早くから教わったので、私も取り残されずに積極的に関わることができているような気がします。父親の育児参加を進めるには、育児の具体的技術について夫婦が同じタイミングで習得することが大事だと思います。

2008年5月5日

「男性の」育児

先日、男の子が生まれました。父親になったので、私も育児について考える機会が増えました。

私は妻の出産に立会い、約1週間の入院中は泊り込みで付き添い、オムツ換え・沐浴・ミルク作りなどをしました。助産師の方が授乳指導に来てくださったときは、一緒におっぱいマッサージも手伝いました。産後4日ほどで上手く授乳できるようになった時は、「3人でがんばったおかげですね!」と言っていただき、とても嬉しかったです。

こんな具合に、男性でも授乳以外は何でもできるはずですが、出産・育児まわりの風景には、男性の姿が少なすぎる気がします。実際、私のように色々とやりたがる男性はかなり珍しいと病院のスタッフの方々からうかがいました。

タイトルに使っておきながら矛盾するようですが、「男性の」育児という表現は本当はおかしいと私は思います。子供は夫婦のものだから、母親だけでなく父親も育児をするのは当然。しかし現実は違います。仕事と家庭の両立(ワーク・ライフ・バランス)は「女性の」問題と思われがちで、育児をする男性は特別視されます。

やはり、男はほとんど育児をせず、女はほとんど真剣に仕事をしない、という性別役割分担が根強く残っているからでしょう。"男性の"育児などと呼ぶ必要がないくらい、父親も子育てをするのが当たり前の世の中であってほしいものです。

2008年4月24日

男性が育児休業を取得するとき(経産省・山田さんのレクチャー)

一橋大学の学部生対象の講義に妻と一緒に参加しました。講師は、山田正人さん。経済産業省の課長補佐だった2004年から1年間の育児休業を取得し、その体験を『経産省の山田課長補佐、ただいま育休中』として出版された方です。ご著書には、、当時2歳だった双子のお子さんと、生まれたばかりのご次男の育児の様子が生き生きと綴られています。第一子の出産を間近に控えた妻に勧められて読んだところ、これから自分がどんな体験をするのか、リアルにイメージすることができました。本を通して語られる山田さんのメッセージにも、とてもとても共感しました。

講義を聞き、育児がいかに大変かあらためて分かりました。育児休業を取得した当時、山田さんはキャリア官僚として13年間の経験があり、部下もいました。「でも、育児では0年生」ということで、失敗もたくさんあったそうです。「育児"休業"といいますが、"休み"という感覚は全くありません」という言葉に大変さが表れています。

一方で、1年間、子供たちと向き合ったことで、「無償の愛」を知ったと山田さんは言います。また、他人に対する見方も優しくなったそうです。かつては40点の仕事しかできない部下に対して、100点満点を要求するような上司だったという山田さん。今は「この人は0から40点にまで成長したんだなあ。親御さんはどんな気持ちかなあ」と微笑ましい思いさえするそうです。何も分からない新生児をゼロから育てたことで、人間を見るときの幅に広がりが出たようです。

このお話を聞いて、ミシガン時代の指導教官(Yan Chen教授)を思い出しました。彼女は2人の子供を育てながら朝3時起きで研究を続けています。人並み外れた努力の結果、昨年、ミシガン大学で正教授になりました。私に対する指導は文字通り「仏」のようで、常に励ましに満ちたものでした。もともとの性格に加え、育児経験が優しさにつながっていたのかもしれません。

講義の後、山田さんからご著書にサイン(写真)をいただきました。私も先輩パパを見習ってがんばりたいと思います!

2008年4月22日

クリスティーズのオークション・プレビューを見学

クリスティーズのオークション・プレビューを見てきました。アルマーニ/銀座タワーのイベントホールには、20余の作品が展示してありました。昨夏、ミシガン大学の美術館で見た澤田知子さんの写真や、有名な草間弥生さんの作品などが予想落札価格と共に展示されていました。

これらは、5月末に香港で開かれる「アジア現代アート」オークションの出品作の一部。招待状を送って下さったM様に、オークショニア(競売人)の役割について教えていただきました。そのお話から、各作品が高い値で落札されるように、様々な工夫や演出をするということがわかりました。また、アジア現代美術の市場は今が伸び盛りで、決まった価格帯(相場)がまだ確立していないため、オークションの落札価格が各作家の今後の評価に影響を与えるそうです。オークション・ハウスは新しい市場形成に大きな役割を負っているんですね。

私の研究分野のひとつは、オークション・メカニズムです。普段はコンピュータと向き合って、効率的なオークションの仕組みを勉強しています。オークショニアとビッダー(入札者)の間に心理的な駆け引きのようなものがあると知り、大変興味深かったです。

今回の展示作品の予想落札価格は、私には手が届かないものでした。普通に暮らしていたら、足を踏み入れる機会はなかったでしょう。招待状を送って下さったM様に感謝! です。

2008年4月19日

腎臓交換(Kidney exchange)移植ネットワーク

ドミノ型生体腎移植やドナー交換腎移植のような「腎臓交換」を進めるためのネットワーク構想があります。カリフォルニア工科大学で開かれた 学会 で、Utku Unver教授がそのネットワークの効率的な運用方法を発表しました---長期的に最も多くの患者を救うためには、どの時点で何組の腎移植ペア(ドナー&レシピアント)を成立させていくべきなのかを計算しています。

余談:CV(履歴書)にあるとおり、Assistant Professor(助教授 or 専任講師レベル)だった彼ですが、去年の11月には准教授をとびこして、いきなり Full Professor(正教授)への昇格が決まっていたんですね(ここにはなんともすごい事情があったわけで、いやはや、まいりました)。

私の車でディナー会場に向かう途中、ドナー交換が日本では進みにくい状況を話しながら、私が「公平性の問題もあるようで、移植を待っている人が多くいるのに、一部だけ抜け駆けをして腎移植を受けたりするのは不公平だとかなんとか(A案)」と話すと、Utkuさんは...

 「ありえない!? だって、パレート改善じゃないのか」と驚いていました。「いやーそれが、なんていうか、日本の社会規範なんですよねーw」というと、一緒に乗っていたOnur Kesten氏(カーネギーメロン大)も「1人がbetter offになる(得する)くらいなら、みんなでworse-offでいる(損しつづける)ことをを選ぶんだよね」とフォローしてくれました。Exactly! うーむ、よくご存知で。

もちろん、上のA案B案に書かれているように、いろいろと問題はありますけど、みんなでworse-offは当たっています。ちなみに参考ですが、ドナー交換腎移植に関する日本移植学会の見解では、

(2)しかし、ドナー交換腎移植は医学的・倫理的に大きな問題を含むものであり、個別の事例として各施設の倫理審査のもとに行われるべきものである。したがって、ドナー交換ネットワークなどの「社会的なシステム」によりドナー交換腎移植を推進すべきものではない。

こちらの記事に紹介されているようなネットワークの構築は日本では難しそうです:山陽新聞の記事「ドナー交換 「生体」際限なく拡大

2008年3月30日

日本に戻る

2000年6月にアメリカに来てから、約8年経った。そして、この日に東京に戻ってきた。「本当に、いろいろあった。」 こう頭の中で言ってみると、本当にいろいろ思い出されてくるなあ。こういう気分を切ないというのだろうか。

2008年3月24日

だから少子化はとまらない!

2008/03/23-14:29 ベビーカー、使用マナー守って=鉄道30社が共同キャンペーン
子供をベビーカーに乗せて鉄道を利用する人が増えていることを受け、関東、中部、関西の30鉄道事業者は24日から、使用時のマナー順守を呼び掛ける共同キャンペーンを実施する。3地域の事業者がこうしたキャンペーンを一斉に行うのは初めて。共通のポスターを約6800枚用意し、赤ちゃんを守るための協力を求める。

乗客の安全を確保するのは鉄道会社の義務だろう。そのための設備も運行体系も整備できないならば、まわりの乗客に手助けをお願いするのが筋。私は学生の頃から、ベビーカーや目の不自由な人(白い杖)の人をみたら、ほぼ必ず手を貸しています。自分が元気だったら、ちょっと手助けするのは人間として当然。そんなこともできないやつは、あいさつできない非常識なやつと同じ。

このキャンペーンは、いってみれば、「お年よりはあぶないので外出を控えましょう」「車イス利用者はマナー守って」「目の不自由な人はマナー守って」と同じようなものでは? むむ、担当者出て来い! 「ベビーカーをみたら、手伝って」ではないのかと、かなり頭にきてます。

鉄道会社の現場に子育てをしている人間がいないからこういうピントはずれなことになったんじゃないだろうか。ダイバーシティが経営上で重要な理由もここにあるんですね。

2008年3月22日

ドナドナ ぼくの車は売られてゆくよ

ミシガンで4年前に買った車が今日、次のオーナーにひきとられていきました。車そのものへの愛着というよりも、ミシガンでの記憶がたくさんつまったものです。ドナドナがきこえてきそうな気分でした。

2008年3月18日

大学院生の人生@PHD

悩めるPhD学生の癒しの聖典ともいえるのが "Piled Higher & Deeper" のマンガです。今日の相関図はなかなかおもしろいです。絵じゃなかったので、勝手に和訳して載せてみました。わかる人にはわかるこの苦しみと焦り(笑。
 学校にもよりますけど、ミシガン大学の場合ですと、入学した人たちのだいたい半分は博士号(Ph.D.)を取得できずにドロップアウトしていったと思います。そういうわけで、上図の最後のステップ、「博士号取得(できるよね...?)」という部分には重みがあります。ちなみに、作者のJORGE CHAMさんはカルテックで研究員もしているんですね。以前にミシガン大学に講演に来たことがあり、私は本にサインをもらいました。

2008年2月29日

Greg Lewis 助教授(ハーバード大学)

ミシガン大学で3人部屋オフィスで一緒だったGreg Lewisと再会。週末にCaltechで開かれたマッチング理論のMiniコンファレンスにきていました。Gregは去年ミシガンを卒業して、ハーバード大学経済学部の助教授になった人で、こういうすごい人は「スター」と呼ばれます。彼はイギリス英語を話すので、在学中はハリーポッターなんて呼んだりもしましたが、いやはや、まいりました。

2008年2月21日

「母親学級」に行ってみる

今日は母親学級に参加。4回シリーズの第3回目で、分娩のときに胎児がどのように産道をおりてくるのか、また陣痛・分娩時の呼吸法などについてを90分で解説してくれました。赤ちゃんの実物大・実物重の人形(写真)を参加者一人一人が抱っこしてみました。3kgとはいえ、ずっしり重かったです。

参加者は全部で35人ほどで、出産を控えた女性がほとんど。最近は"母親"ではなく「両親学級」といったりもしますが、ここでは男性の参加者は私と白人男性の二人だけでした。出産するときの呼吸法などは分娩をサポートする側として知っておきたいものなので、このために日本に4日間だけ戻って来ました。アメリカに8年住んで、子育てをする男性教授をたくさん見てきましたので、両親学級に参加するのはフツーの感覚なのですが、やっぱり日本ではまだ珍しいんですね。

企業はCSR(社会的責任)とかいって、木を植えたりしていますけど、自社の男性社員が育児に参加しやすい雰囲気を作る方が重要でしょうに。男性の育児休暇取得は法律で保障された権利ですが、取得率はいまだに1%未満! 木なんか植えなくていいから、父親を家庭に返しませんか。

2008年2月8日

アムステルダム大学でセミナー発表

オランダのアムステルダム大学でセミナー発表してきました。ここにはCREED(Center for Research in Experimental Economics and Political Decision-Making)という実験経済・政治意思決定研究センターがあり、前から訪れてみたいと思っていました。ランチセミナーということで、オランダ式サンドイッチ(名産ゴーダチーズがはさんであります)がでました。ごちそうさまです。結果の解釈方法や仮説検証についてありがたい質問・コメントが出て、とても有意義でした。ヨーロッパでの発表は3度目ですが、アメリカとは笑いのツボとタイミングがすこしちがうので、これもなかなか面白かったです。前日の夜に、経済学部のたてものをとってみました(写真右)。ガラス張りの正面がきれいですね。

2008年2月5日

ベビーカーと路面電車

オランダ・アムステルダムは路面電車(トラム)がとても便利でした。東京の地下鉄網もなかなかいいのですが、階段ののぼりおりが面倒で、それに比べるとトラムは乗り降りも楽です。ベビーカーの利用も何度かみかけました。乳児を乗せたまま、そのまま車両に乗り込み、車掌の目の前に設置してある専用スペース(車椅子・ストローラー優先)に立ちます。トラム車内で男性(父親)+ストローラーを1回だけ見かけました

2008年2月4日

本場のダッチオークションを見学

Dutch Auction(オランダ式オークション)を見学してきました。ミクロ経済学を勉強したことのある人ならたぶん知っているのではないでしょうか。この方式は、オークション開始時点では品物の提示価格が高めに設定してあり、それが時間とともにさがっていきます。価格が下がり続ける途中で、参加者のだれかがボタンを押して「買った!」となれば、その時点の価格で売買が成立します。

朝7時にアムステルダム市内のホテルを出て、バスで50分、アールスメール花市場(Aalsmeer Flower Auction)に到着しました。この世界一の生花卸売市場では、ダッチオークションを使って商品が取引されています。写真にあるのが、コンピュータ化された Dutch auction clockで、白い円の部分を赤い点(電光)が反時計周りにまわっています。円の一番上が100セントを表し、左にいくと90セント、80セントと価格が下がっていき、1周し終えたところで、価格0となります。写真は、参加者番号23の人がこのヒマワリを1本63セントで落札した瞬間です。赤い点が円盤の左下のほうの63で止まっていますね。赤い点は4秒ぐらいで1周します。4つのオークション会場にそれぞれ2つの時計が同時進行していますので、ものすごい速さで次々と花が捌かれていきます。競り落とされた生花は直ちにコンテナに積まれ、トラックで運ばれたり、となりにあるスキポール国際空港から世界中に空輸されます。

それから、世界初の株式会社といわれる東インド会社(1602年設立)の本社ビルも見てきました。当時の取締役会議室がまだ残っており、本社ビルはアムステルダム大学の校舎として使われています。運河の左に建つ3つ屋根のある建物です。

2008年1月26日

実験経済学とFCC Auction

Google Airwave 社が携帯電話(携帯端末)ビジネスをはじめるために、無線周波数オークションに参加しています。1月24日に、700MHz無線周波数帯の全米での使用免許権が競売入札にかけられました。これは、FCC(連邦通信委員会)が"第73番オークション"とよぶもの。携帯端末事業に使える無線周波数帯の使用免許は、これが最後のものとなりそうなので、グーグルも競売入札に参加しました。FCCが見込む歳入は、最低でも10億ドル(1060億円)ということ。この落札額は、FCCが行ってきた一連のオークションのなかで、おそらく最高額となりそうです。

誰が使用権を競り落とすのか、Googleの携帯端末ビジネス(gPhone)の行方は? ビジネスの世界で注目を集めるのはもちろんなのですが、実は、このオークションに注目する経済学者もいます。そのわけは、このオークションが新しい方式で行われるからです。

新しい方式は、組み合わせオークション (Combinatorial Auction)あるいはパッケージオークション(Package Auction)とよばれるもので、複数の使用免許を同時に競売にかけるのに適した方式です。全米の無線周波数帯使用免許といっても、全米をカバーする使用免許がひとつだけ競売にかけられているのではありません。FCCは、全米を12の地域にわけ、それぞれの地域での使用免許を同時に競売に出します。組み合わせオークションでは、個々の免許を別々に競り落とすのではなく、12ある免許のうち、いくつかを組み合わせてパッケージを作り、そのパッケージに入札することが可能なのです。オークションの具体的な形式は Rothkopf, Pekec and Harstad (1998) の hierarchical package bidding というもの。それぞれのパッケージの値段をオークションの途中でどのように上げていくのかなど、実際には、もうちょっと複雑な設定が必要です。また、FCCは実験経済学者にオークションの具体的な仕様のテストを依頼することがこれまでにもありました。

オークションは現在進行中。週末をはさんで、月曜日から再開されます。すでに3.7億ドルの値がつけられているようですね。詳しい金額などはFCCのwebsiteで全部公開されていて、Auction 73: 700 MHz Bandで見ることができます。さすがアメリカ、これが透明性というものでしょう。

2008年1月4日

実質を無視した形式主義(日本の現場力)

成田空港での荷物検査。航空機内への液体物のもちこみには制限があって、1リットルの透明なチャックつきのビニール袋に入るものしか持ち込めません。シャンプーやら化粧水などなど、たくさん詰め込んでいる人が結構いますね。

私は小さなローション瓶(3cm×5cm)をもっていたので、専用トレイにその瓶だけをいれて、X線検査に通しました。小さな瓶が1つだけなので袋に入れる必要はないだろうと思い、1つのトレイにその瓶だけを置きました。アメリカでもいつもそうしていますし。ところが、金属探知機ゲートを越えて、X線検査から戻ってきた荷物をまとめていると、「これは、お客さんのですか。液体物はビニール袋にいれていただかないと」といわれました。「あ、そうですね、すみません」と言ったのですが、それではすまないようで、ビニール袋はないかとさらに聞いてきました。わざわざビニール袋にいれて、もう一度X線検査機に通すつもりなのでしょうか。去年だけでも30回以上も世界各地で飛行機にのっていますが、問題はありませんでした。仕方ないなあと思いながら、ビニール袋を探していると、「じゃ、今回だけ、これで」と不機嫌そうに国交省御用達の専用ビニール袋を胸ポケットから出してきてくれました。「あ、どうも。助かります」といって、私がもっていた小さいローション瓶を袋にいれた瞬間に「OKです」と、その係員は立ち去りました。え?? いったい、なんだったんだ!!? わかる人にはきっとわかっていただけると思いますが、この現場係員の「実質を無視した形式主義」に、日本の強さと弱さの両方を改めて実感しました。