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2019年10月10日

「これぞ大学で出会いたかった授業」早稲田政経『実験経済学』

早稲田大学の学生さんとは非常に相性がよくて、絶賛コメントをたくさんいただきました。「この先生の講義を聴けることが大きな財産」、「学問を楽しいと感じられる政治経済学部で唯一の授業」など(こちらに抜粋しています)。(追記:早稲田大学ティーチングアワード総長賞をいただけることになりました、大変光栄です。)
 あるいは「自分が普段何も考えずに生きていたか、自分の無知さを再確認することができた。もっと勉強を重ねて色んな分野の知見を広げていきたいと初めて感じさせてくれる授業だった」。
「うまい棒」で人気をとってるわけではないので、
このエントリーを書かせていただいております。
早稲田大学政治経済学部で2009年に開講された『実験経済学』を11年間にわたって非常勤講師として担当させていただき、これまで延べ3790人が受講してくれました。学生のみなさんや、関係する先生方には本当にお世話になりました。絶賛していただいたコメントには私もそれなりにうなづくものがあります。(注:シラバス自体は標準的で、「実験経済学」の内容として市場実験、利他性、公共財、リスク選好・時間選好などを紹介しています。)

 自画自賛は多分に含みつつも、早稲田の学生さんがくださった絶賛コメントを紹介しつつ、どのような取り組みが高く評価されるのか、そしてそれはなぜなのかを以下ですこしだけ紹介します。大学教育に携わるみなさまや、大学で経済学を学ぶ方にすこしでもお役に立てることを願います(自画自賛で読むに堪えないという方は、どうか読み進めないでください)。

5つの”特長”

コメントから講義を自己分析しますと、評価要因は大きく5つにあるようです。

1. 経済学の位置づけの整理
経済学の”机上の空論”というイメージを取り去ってくれた点。」「ミクロ経済学・マクロ経済学を受けるまえに受けると良い講義」「経済学がはじめて面白いと思った」「公平性・平等について重点を置いて議論がされている素晴らしい科目」

2.学生との距離が近い
「早稲田の他の大講義室でのどの授業よりも学生との距離が近い」「単位のためだけではなく内容を聞きたくて行きたくなる授業」「学生を巻き込んだゲームなどで私たちの興味を経済学に惹きつけてくれた」

3.「今までのなかで一番おもしろい」と感じられる仕掛け
「これだけユニークな授業をしてくれる先生は他にいない」「今まで講義を受けた教授の中で、最も生徒に寄り添う教授」「大学の中で最も面白い授業」「今まで受けてきた授業の中で最も学生に興味を持たせようという意識」「こんなに面白くためになる授業をしてくださる教授は他にいない」

4.人生やキャリアについて考えるきっかけ
「まさか経済の授業で、自分が人としてどうありたいか、どう生きていきたいのか、考えさせられるとは思ってもみませんでした。4年生の今、この講義を受けることができて、本当に良かったと感じています。」「先生の授業はコリ固まった僕の思考に、ひとつ光をさしてくれたような気がして、とても感謝しています。いまはこのワクワクに身を任せてみたいなと思います。」

5.「これぞ大学で出会いたかった授業」と思うテーマ性
「自学自習の精神を著しく感化する授業」「未来の世の中をよくしてくれ、というメッセージがすごい」「人間として大事なものを教えてもらった」「思考を強制するのではなくあくまでも生徒の自主性に委ねている点。その一方で先生のメッセージははっきりしていて響く人には響くと思います。」

このエントリーでは、上記の1~3までの点について書いてみます。
字数も限られていますので全方面に向けて再反論は用意していませんのでご了解ください。


1.経済学の位置づけの整理

エッセイのエントリーでも書く(予定)ように、経済学を積極的に学びたくて経済学部にすすんだ人は実は少ないのです。経済学の研究対象や手法について関心も前提知識もないところに、ミクロ経済学理論を学んでも、なかなかしっくりこない人も多いようです。私自身も大学1年のときの経済学への期待と失望とがあり、悩んでいたので、大いに共感します。
 だからこそ、①社会科学としての経済学の特徴、②顕示選好理論のエッセンス、③「経済学を専門として役に立たせる」などを話しています

 ①いろいろな社会事象のなかで何を問題とし分析対象とするのか。そして、その事象を社会科学としてどのように捉えるのか。例えば(初歩的に)、法学なら規範や制定法の観点からみるかもしれない、社会学なら歴史や文化や権力関係などだろうか、政治学なら制度かもしれない。経済学、特にミクロ経済学は「目のまえの社会事象は、なにかの最適化の結果の集合なのだ」とみなすのが特徴です。だから最適化問題を解く練習をすると話します。この前提を踏まえて、顕示選好理論や合理性(rationalizability)に話をつなげます。

 次に、効用関数など非現実的だという疑問に答える形で、②顕示選好理論のことを話しています。非現実的すぎるという点については、まず、ミクロ経済学の公理主義的アプローチ、フリードマン(1953)「実証的経済学の方法と展開(下図)」のアイディアを紹介解説します。続いて、”規約主義”や非ユークリッド幾何学なるものの発見について触れることで、公理を基盤に構築される理論体系のイメージをつかんでもらえるようです。
「仮説はその仮定の現実性によってテストされうるか」
高校までで学習する数式モデルは、数学科目でのモデルか、古典的な物理学モデルが主だと思います。前者であれば、そもそも抽象度が高く、工学応用を知らないかぎり(そして経済学部に来るような高校生が数学の工学応用を学ぶ機会はとても少ないはずです)現実との連関を気にする必要がありません。後者であれば、公理に基づくモデルというよりは、物体が放物線を描いて落下する「運動法則」や、バネと弾性力の「フックの法則」といった、現象そのものに理論の基盤を見出すことができそうなモデルです。
 ところが、ミクロ経済学は、そのどちらでもありません。抽象度は高いものの、その対象は「価格」といった極めて人為的な現実にあります。そのくせ、そのモデルの基盤となりそうな現実を探そうとしても教科書には一切でてこない。ここが混乱のもとでもあります。そこで、行動主義的アプローチ(≒顕示選好理論)を紹介しやすい実験経済学の利点が活きます。
まず、ある人の行動を、第三者である研究者が理論化モデル化するには、おそらくその人の脳内活動を直接観察するほかないだろう。それが不可能な現在は、とりあえずなにか「効用」なるものがあって、それを最大化しているかのようにその人は行動しているのだとみなす”as-if”アプローチで理論を構築する他ない。効用最大化なんて本当はしていなかったとしても、観察される行動と効用最大化理論が整合的であるかぎり"as-if"アプローチも悪くない。ただし、すこし心配になるのは、どういった行動に対してなら理論は整合的でいられるかだ。これにはすばらしい定理(Afriatの定理)があって、基本は推移性(と完備性・局所非飽和性)を満たしさえすればOKだといえる。逆に、推移性が満たされない行動に対しては"as-if"理論アプローチは基本的にお手上げである。だからこそ、教科書の最初に「推移性」が仮定されている。教科書によっては「人間はこうあるべし」だとか「推移性も満たさないような行動は分析に値しない」とも読める記述があるがミスリーディング。そもそも推移性が満たされないと標準的な理論では手も足もでないという謙虚な姿勢でもあるのだ。
映画『ウォーゲーム』(1983)の最終場面も紹介してます
といったことを話します。ただし、こうしたことを、このままストレートに話してもチンプンカンプンなので、三目並べ(Tic-Tac-Toe)で学生さんと講義中に対戦してツェルメロ定理を紹介したり、数当てゲーム(p-beauty contest game)を解説したりする場面で伝えられるよう努力しています。
 ツェルメロ定理でいえば、ゲームのルールが決まると同時に、ゲームの結果も決まっているようなもので、公理主義的アプローチも「公理→→定理」を1セットとして運用すべきである。そして、どのような公理が目の前にある現実を表しうるのか考えたり、あるいは、現実社会のどういった部分を公理として議論をスタートさせるかが”適切か”を考えたりすると伝えています。

ここで述べたように経済理論が”規約主義”でいう規約にすぎないとすれば、当然、非現実的すぎて役に立たないといった批判が待っています。そこで専門として役に立っていることも話します。

③「経済学を専門として役に立たせる」
学生さんは一般的に労働市場で評価されるスキルについては学習意欲があるようです。そうした観点から、現実的でない経済学を学んだところで「役に立たない(≒高収入を得られない)」と誤解されてしまうようです。それを否定するひとつの手段として、オークション入札戦略のナッシュ均衡の導出をしています。最初の1階条件までをアイディアで説明し、微分方程式を一歩一歩展開し、均衡戦略を導出します。
オークション入札戦略ナッシュ均衡は微分方程式を解いて得られる。
導出過程をみながら、”数学が本当に必要な希少例”として紹介している。
学部レベルの経済学では、数学をわざわざ使わなくてもグラフを描くだけで同じ結論が得られたり、数式を使っていてもその数値に何の現実性もなかったりということがよくあります。ただ、このオークション入札戦略では、期待消費者余剰の最大化の1階条件を整理していくと、どうしてもネイピア数や積分が必要となります。そして、1位価格入札、2位価格入札、All-payオークションをひとつひとつ紹介し、自分なりの入札戦略を考えてもらいます。そして、売り主はどのオークション方式を採用するのがよいのかと聞き、その後に「収入同値定理」を紹介します。多くの学生が驚く内容のはずです。
 こうした知識は、大学院レベルの教科書冒頭の数ページで解説されるもので、大学院レベル(=専門家レベル)は、この難しいモデルを出発点に様々に議論を拡張させているものなのです。そして、あるオークション研究者が受けた「400万円払うから、なにもしないで下さい」というオファーも話します。
 さらに、司法省に就職し、週休2.5日で年棒かるく1000万円を超えるジョブに就いたクラスメート(PhD)の話や、私自身が移転価格チームから年棒1000万円超のジョブオファーをいただいた話をします。また、例えば、世界銀行の採用情報(英語)をスクリーンで一緒にみて、応募資格が「最低でも経済学修士号(できれば博士号が望ましい)」とされているのを確認します。
世界銀行の採用情報のほとんどには「最低でも修士号。博士号(phD)が望ましい」とある。
経済学が就職に”役に立たない”と言ったの誰!? と思ってくれるはずです。ただ、PhDを取るわけでもない学部学生さんにはどう経済学が”役に立つ”のかは、また改めて書く機会があればと思います。
 これだけではなく、たとえば、
効率と公平がバランス良く議論されている。経済学なので効率性が一つの重要な価値基準として議論が進められているが、公平性についても注意が払われているし、差別や平等の問題についても非常に重点を置いて議論されていると思う、これはすごく大事なことだと思う。
というコメントもいただきました。これは、市場実験のときに、余剰が最大化される≒取引人数が最小化されるであること、逆に、相対取引で取引数を増やすと余剰が減ってしまうことも数値例で示した講義への評価もあると思います(2009年からこのトピックを話しています)。また、本エントリー後半で述べるように、実証分析(positive analysis)の経済学をもって安易に現状肯定してはならないことも伝えていることを評価してくださったコメントだと思います、ありがとうございます。
 
他にも、「市場」という社会制度は、経済社会に散在する情報(買い手の好みや懐事情、作り手の技術制約や原価情報などなど)を均衡価格に撚りあげていくシステムなのだという見方も説明します。

こうしたトピックや雑談によって「経済学の全体像がみえた気がする」という感想につながっていくのかなと思います。

2.学生との距離が近い

実験経済学という講義の性質上、参加型にはしやすいかと思います。参加型ゲームとしてどのような仕掛けが活きるかは別途述べさせていただくとして、「過去受けた授業の中で生徒の意欲と興味を最も高めている先生」「大学では珍しい新スタイルの教え方だと思う」というコメントからは、”距離が近い”印象を評価してくださっているのかなと思います。
受講生は毎年上限いっぱいの340余名。写真のとおりの大教室でも「先生との距離が近い」と
書いてくださってうれしいです。
特に意識してやっていることはないので、やや意外な感じがします。でも、コメントありがとうございます。
 心当たりがあるとすれば、たとえば「質問は? わからないところはありますか?」ではなくて、「気になったところ、こう考えたらどうなるのだろう? があったら、ぜひ教えてほしいです」という言い方をするようなところでしょうか? わからないところを大勢の前でさらけ出すようなのは尻込みしますので、「質問」という言葉は使わないほうがよいかなと思っています。
 質問やコメントをいただけたら、まず大教室なのに挙手して質問してくれたことを感謝する。次に、質問に答えるのではなく、まず質問内容を繰り返して確認し、教室全体に共有する。また、質問した人の気持ちに同意する(質問そのものは専門家からすれば、すでに解答が得られているようなものも多いのですが、初習者が疑問に思う気持ちはとても大事です)。このステップを経てから、質問に回答するように心がけています。質問してくれた場合は、なるべくその人のところまでいってマイクを手渡して話してもらうようにしています。
 このようなところでしょうか...?

みなさんが出してくれたレポート(右図:合計76万5000字)を読んで、響くフレーズや考えさせられるフレーズを折に触れて、講義中に紹介したりするのもよかったのかもしれません(講義中に紹介する旨はもちろん了承済み、です)。


ほかにも[続く。執筆中]

2018年11月19日

男性教員の代講しますので、育休とりませんか?

0歳児育児のために育児休業(や産休)をとる大学教員(男性)の代講を(どこまでできるかわかりませんが)なるべく引き受けたいと思っております。あなたも育休とってイクメンの輪ひろげよう! 1か月だけの育休をとった私も、事務職員の方(男女計3名)から、男性教員が育休とってくれると育休とりやすいのでありがたいとお声もかけていただきました。

【背景】2011年に第2子が生まれたときに私は育児休業を1か月だけ取得しました。時間の自由に最も恵まれている職業のひとつであるため、実質的に育児休業にはなるのですが、やはり前例を増やす必要があろうと思った次第です。第1子のときは帰国着任の直後だったので、制度利用せず数年は24時間乳児家事マシーンでした。心身ほんとうに疲弊しますが、それでも、乳幼児を育てることは、私たちの短い人生のうちで経験できる最も重要で、かつ、本当に素晴らしいもののひとつだと思います。出産立ち合いもおすすめします。

育休申請をしたところ、事務方が無給となる育児休暇よりは年次休暇の申請を勧めてくれました。また、12月の賞与の換算率にも影響があるがそれでもよいかと確認がとられました。しかし、とにかく1か月でもよいのでと思い次のようなメールを書きました(下線はこのブログでつけたもの)。
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ご担当者様 (cc: 研究科長, 事務長)

お世話になります。有給休暇ではなく、育児休業を使えば、給与も賞与も研究費も減額に...なるのだと思います。

ただ、日本の男性の育児休業取得率はわずかに2%程度であり、あまりに低すぎますので、この状況の改善にすこしでも役立てばと思っています。

育児休業の実績を作ることは、一橋大学と日本社会のためにできる、ささやかながらの貢献だと思います。少子化社会のなかで、"新しい価値を切り開く"ことを期待される大学が率先して果たすべき社会的責任ですし、学生さんへの教育効果があるはずです。

たとえば、経済学の教員53人のうち、女性はわずかに4人(たった7.5%)で、いかにもいびつです。こうした状況で、男性教員が育児休業とることに教育的意味があるはずだと(少なくとも私は)考えています。

ということで、収入減は覚悟のうえで、育児休業申請をいたしましたので、どうぞよろしくお願いいたします。事務手続きでいろいろとご面倒をおかけしますが、経済学部事務室の皆様・人事労務課の皆様にもよろしくお伝え下さい。

竹内幹
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そのときに一橋大学に在籍していらっしゃった、青木玲子先生(公正取引委員会)、小黒一正先生(法政大学)、井深陽子先生(慶應義塾)の3名の先生方が1か月間の講義の代行を快くお引き受けくださいました。本当にありがとうございます。

そのときのご恩をなんらかの形でお返ししたく、生まれたばかりのお子さんを名実ともにフルタイムで育児する男性教員の講義代行をしたいと思った次第です。201?年度も産休に入る教員(女性)の講義代行もしました。

【講義代行】

2011年4月14日

准教授になりました

准教授(大学院経済学研究科)に昇任させる
教育職○級○○号棒とする
任期の定めのない職員となった


しっかりがんばります。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

2010年6月13日

博士号をとるステップ2:コースワークを終えて

前回の続き。
博士(Ph.D.、「ピーエイチディー」)になるときの手続きは次の通り。
Course work → preliminary (comprehensive) exam → 3rd year paper → committee → proposal defense → oral defense → doctoral thesis (dissertation).

3rd year paper: コースワークを終えた3年目に論文を1本書くことになっている。3年目だから、日本でいえばD1にあたる段階。このときにそろそろアドバイザー(指導教官)を決めなくてはならない。どの先生に指導教官になってもらうかは、博士課程にあって一番重要なことだ。これは、どんなに強調しても、強調しすぎることができないくらい重要だ。このドラマについてはまたいつか別の機会に書こう。

cognate: コグネイト、大学のポリシーとして専門以外の科目の講義も勉強しなくてはならないことがある。

2010年6月4日

博士号をとるステップ:修士号と博士号

とても懐かしい。おもわず買ってしまった。このクッキーを、3年前の5月のディフェンスのときに買ってもらったのを思い出した。ディフェンスというのは博士論文の口述試験のこと。博士号取得の最終段階で必要なステップだ。

博士論文についての発表だから、2時間以上になるのは当たり前。審査員となっていただく先生方のおなかをすかせてはいけないので、飲み物といろいろなスナックを用意して備えた。そのスナックのひとつが、写真のクッキーだ。これをみて3年前のことが思い出された。2007年の夏に博士号を取得 → 妻の妊娠 → LAと東京の往復生活 → 一橋に就職 → 日本に戻る → 出産・育児と、振り返る暇もないまま3年が過ぎた。博士論文もパブリッシュしたことだし、忘れてしまう前に、ミシガン大学での博士号取得プロセスを振り返っておこうと思う。

博士(Ph.D.、「ピーエイチディー」)になるときの手続きは次の通り。
Course work → preliminary (comprehensive) exam → 3rd year paper → committee → proposal defense → oral defense → doctoral thesis (dissertation).

大学を卒業すると、学士号(BA)という学位を取得できる。大学の卒業証書には、あなたは学士になったんだということが書かれているはず。それで、そのあと大学院に行ってとれるのが、修士号(MA、エムエー)だ。通常は2年間、ある特定の専門分野についてみっちり勉強することで取得できる。ビジネススクールでとれるMBAは、Master of Business Administration の頭文字で、ビジネス分野(経営学)での修士号という意味だ。

私が取得したPh.D.(博士号)は、そのさらに先。修士号がある特定分野のことを詳しく知っていることの証であれば、博士号レベルでは、その特定分野の最先端を切り開いていくことが求められる。このちがいは、次のようにいえる。修士になるには、教科書に書いてあることや何かの解説をすごいスピードで吸収していかなければならない。それに対して、博士になるためには、修士になるための勉強をする人達が将来読むであろう教科書に載るような"発見"をしたり、問題を"解決"したりする必要がある。将来の教科書に書かれるであろうことを今ここで見つけていくのが、博士課程の学生に要求されていることで、すでに発見済みのことを勉強するのが修士課程の学生。決定的に違う。もちろん、博士のやっていることが将来の教科書に載る大発見だということでは必ずしもない。それでも、修士と博士は、そのぐらい違う。小説を書く作家と、その作家の小説をよく読んでいる読者みたいなものか(えらそうだなあ)。まあでも、理想的にいえば、やっぱりそうだろう。実際、修士号取得はかなり楽だ。

さて、その博士号取得プロセス。まずは、コースワークからだ。

2010年2月13日

日経平均みれば1年後の就活を占えたはず。

2008年9月にサブプライムローン問題で株価が急落したあと、講義中に学生のみなさんに"警告"しました。
「3年生の君たちの就職活動は去年とは比較にならないから、覚悟してほしい。」
「サークルやゼミの先輩たちは売り手市場で就活した。そのアドバイスを当てにするな!

そのときに見せたのが下の図。青いグラフは10月の日経平均株価(終値)で、赤いグラフは大卒求人倍率(リクルートワークス研究所)。

2010年1月17日

見える相対性理論

センター試験2日目は数学と理科。ちょうどいいので、前から読もうと思っていたこの本を読みました。時空図をきっちり描いて相対性理論のアイディアを説明してあるので、わかりやすかったです。相対性理論のアイディア図解はこれまでにもみてきたけれども、この本では方眼紙のようなグリッドを背景に時空図が描かれているのでみやすいですね。図をふんだんに惜しみなく使っているので、見開き(右側に解説図、左側に文章)で読み進むことができます。最後のほうで、数式を少しだけつかい E=mc^2 の図による解釈もしてくれているので勉強になりました。著者は私の従兄なんだけど、なかなか会えないので、今日はこの本を読んでみた。

2009年8月28日

アドバイザーのオフィスをテレビ電話でみる

論文のreviseのためにSkypeで何度も話し合う。かつてはマンガで近未来の技術として描かれていたテレビ電話も、いまや日常的なものなんですね。スクリーンに映るのは、ミシガン大学のアドバイザーのオフィスだ。何度も通ったなあ、自転車をこいで、あるいはクルマを運転して。なんとも本当に懐かしい。

2009年8月10日

東京大学も「くるみん」取得

東京大学も「くるみん」を取得したんですね!

くるみんマークは、子育てと仕事の両立(ワークライフバランス)を支援できる企業・事業体が取得することができます。「次世代育成支援対策推進法」にもとづき厚生労働省が審査していて、東大も今年の6月に「基準適合一般事業主」として認定されたとのこと。詳しくは広報ニュースにて。
「くるみんマーク」を取得するのは、男女ともに働きやすい職場だということをアピールし、良い人材を引き付けるためでしょう。イメージアップのために、一橋大学も「くるみんマーク」を取得したらいかがでしょうか。

私が書いたのは去年の9月。そのとき、すでに東大は2年間の行動計画期間の75%を終えたところだったんですね。なるほど、なるほど。他の大学ももっと「くるみん」を取得していくといいなと思います。一橋は、行動計画さえまだないんじゃないのかな? 提案してみよう。

2009年4月29日

早稲田大学で実験経済学を教えさせていただいています

4月から早稲田大学の政治経済学部で「実験経済学」を週1回教えさせていただいてます。今年度から開講の新しい科目ということもあってか、定員数を超える履修申込があったようです。みなさんのご期待にそえるように刺激のある講義をしたいと思います。

2019年追記:これまでに多くの学生さんがお褒めの言葉をくださいました。ありがとうございます。講義の”特長”について考えてみました→ 「これぞ大学で出会いたかった授業」早稲田政経『実験経済学』

早稲田大学で4回講義をして気づいたのは、学生さんの反応が(一橋大学とくらべて)とても良いということ。何かを訴え語りかけたとき、きちんとアイコンタクトを返してくれる学生さんの数が圧倒的に多いんですね。質問をよびかけると、90分につき4~5人の学生さんがいろいろな質問をしてくれます。本質をついた良い質問もいくつも出ます。サンプリングバイアスはありそうですが、それでもあまりの違いにびっくりしたというのが率直な感想です。(一橋諸君もがんばろう!と一卒業生の立場から呼びかけたい気分。)

早稲田大学での講義、そんなわけで毎週楽しみです。ブログ「竹内幹の講義」に内容メモを書いています。

2008年9月4日

くるみんマーク:大学も取得しましょう

「くるみんマーク」をご存知ですか。子育てと仕事の両立を応援する企業・事業体が取得することができます。次世代育成支援対策推進法にもとづき、厚生労働省が審査しています。ソニー、ホンダをはじめ、日産、富士通、パナソニックなど合計366社が「くるみん」を取得しました。名刺に「くるみん」をつけている企業もでてきました(下写真)。

取得にあたって条件がいくつかありますが、注目は、男性の育児休業取得実績が含まれていることです。

企業が「くるみんマーク」を取得するのは、男女ともに働きやすい職場だということをアピールし、良い人材を引き付けるためでしょう。イメージアップのために、一橋大学も「くるみんマーク」を取得したらいかがでしょうか。もし男性の育児休業取得実績がなければ、私が育児休業申請できますし。

スタンフォード大学も同様の理由で大学内託児所(定員100名)をオープンさせました。ハーバード大学も優秀な女性教授陣をリクルートすることを目標に2006年から8億円のプロジェクトを始め、定員100名の託児所を作ることにしています。関連記事はこちら→スタンフォード大学内に保育園がオープン

2008年3月30日

日本に戻る

2000年6月にアメリカに来てから、約8年経った。そして、この日に東京に戻ってきた。「本当に、いろいろあった。」 こう頭の中で言ってみると、本当にいろいろ思い出されてくるなあ。こういう気分を切ないというのだろうか。

2008年3月22日

ドナドナ ぼくの車は売られてゆくよ

ミシガンで4年前に買った車が今日、次のオーナーにひきとられていきました。車そのものへの愛着というよりも、ミシガンでの記憶がたくさんつまったものです。ドナドナがきこえてきそうな気分でした。

2008年3月18日

大学院生の人生@PHD

悩めるPhD学生の癒しの聖典ともいえるのが "Piled Higher & Deeper" のマンガです。今日の相関図はなかなかおもしろいです。絵じゃなかったので、勝手に和訳して載せてみました。わかる人にはわかるこの苦しみと焦り(笑。
 学校にもよりますけど、ミシガン大学の場合ですと、入学した人たちのだいたい半分は博士号(Ph.D.)を取得できずにドロップアウトしていったと思います。そういうわけで、上図の最後のステップ、「博士号取得(できるよね...?)」という部分には重みがあります。ちなみに、作者のJORGE CHAMさんはカルテックで研究員もしているんですね。以前にミシガン大学に講演に来たことがあり、私は本にサインをもらいました。

2008年2月29日

Greg Lewis 助教授(ハーバード大学)

ミシガン大学で3人部屋オフィスで一緒だったGreg Lewisと再会。週末にCaltechで開かれたマッチング理論のMiniコンファレンスにきていました。Gregは去年ミシガンを卒業して、ハーバード大学経済学部の助教授になった人で、こういうすごい人は「スター」と呼ばれます。彼はイギリス英語を話すので、在学中はハリーポッターなんて呼んだりもしましたが、いやはや、まいりました。

2007年12月19日

JSTORに行ってきました

研究者が必ず使う学術誌のデーターベースのJSTOR。私もずいぶん利用してきましたが、実はその本部がミシガン大学にあったんですね。私が住んでいたアパートから徒歩2分のところに事務所があったとは全く知りませんでした。せっかくだから、記念撮影です。

JSTORは、メロン財団の出資によって、1995年に設立されたNPO。増え続ける学術誌の発行に収蔵スペース・予算が追いつかないという図書館の悩みを解決するために設立されたそうです。サーバーをミシガン大学におき、現在は773の学術誌がオンラインで収録されており、延べ17万号=2470万頁が閲覧可能です。多くの研究論文(特に社会科学系はほとんど)がこのJSTORからPDF形式で入手可能です。

2007年12月16日

ミシガン大学の卒業式

ミシガン大学の卒業式に行ってきました。学年末(4月)の卒業式にはクリントン元大統領がゲストとして呼ばれていましたが、12月の卒業式は比較的小規模。そのかわり博士号取得者は一人一人名前で呼ばれて壇上にあがって、学長と握手ができるというものでした。

会場を沸かせたのが、ミシガン大学から名誉博士号を授与され、ミシガン大学の生命科学研究長に招かれた人の祝辞。研究者としてもスーパーに優秀で高給取りなんでしょうけど、ギター弾きながら歌ってくれた"My Way"の替え歌もよかった。「宿題・レポートとか、ずーっと"I did it THEIR way"でやってきたけど、こんちくちょう 今日からは I'll do it MY wayだ!!」と。彼の熱唱に会場は総立ち、大声援が送られました。

2007年12月15日

ミシガン大学を再訪

ミシガン大学にまた来ました。日曜日の卒業式に出席したり、いろいろな人に会ったり。ひさしぶりの雪を懐かく踏みしめました。

2007年12月5日

UCLAにクラスメートを訪ねて

ミシガンでのクラスメートがUCLAにvisitingしている(客員研究員)ので、彼女を訪ねてきました。写真中央が彼女、左に写っているのはMeyer-ter-Vehn助教授。ミシガン大学でのオフィスは一緒だったし、アドバイザーも一時期同じであったり、色々な意味で「苦楽をともにした」クラスメートです。

ミシガン大学では男女問わず、MICHIGANのTシャツをきて、寝巻き同然で出歩いている学生が多かったのですが、UCLAの学生さんたちはみな良い身なりでした。

2007年11月20日

大きくなったカエルたち

8月のあの頃(写真)に比べて、ずいぶん貫禄が出てきた。色も、なんか濃くなってきたし。そろそろ越冬準備かな。