2010年2月1日
経済学"教育"とプロパガンダ
ケインズ経済学とハイエクの思想を対比させながらラップミュージックで歌い上げるビデオです。ケインズは、20世紀前半に財政政策(政府による不況対策)の必要性を理論的に説いた経済学者。ビデオ前半では、政府がとにかくカネを使い景気を刺激することで、停滞していた経済が好循環し始めると説いています。後半では、対するハイエクが、そうした一時しのぎの景気刺激は錯覚であり、その錯覚がバブルをうみ、さらにバブル崩壊によって経済は停滞する。ばら撒き政策・インフレ政策はやめよと歌います。歌詞はこちらのURLの左下のほう"SING ALONG"というところにあります。
http://www.econstories.tv/home.html
一見すると、大変興味深い経済学教育ビデオです。すばらしい!
しかし、どうもしっくりこない。それに、金をずいぶんかけて誰がこんなもん作るんだ?
反ケインズ的なところが共和党を連想させるなあ。景気刺激のイメージとして全編にわたって、ケインズがパーティーで酒をあおって女性たちと踊っている。なるほど、政府支出は無駄で破廉恥なパーティに等しい愚行だといわんばかり。監修した経済学者は『インビジブルハート』の著者でいわゆる市場原理信奉者だけど、それはよくあること。制作部局はジョージメイソン大学の Mercatus Center という組織。市場の機能を研究する目的の部門なのですが、それもよくあること。でもやっぱり、その資金源が...おもしろい。
http://mediamattersaction.org/transparency/organization/Mercatus_Center/funders?year=-
を信じるかぎり、ウルトラ保守団体が数億円単位の寄付をこれまでにしている。オモテには出てこないで、巧みに(しかも一見して保守だとはわからないように)イメージ操作をするんですね。アメリカのPRは巧妙。Youtubeについたコメントも、たとえば「ケインジアンは経済学者じゃねえ、social engineerだ(うそをついて人を操作する奴ら)」だとか、ねらいどおりに大金持ち保守の喜びそうな主張が展開されている。反オバマ・キャンペーンの一環かな。2000年代にアメリカの大学で起こされた反アファーマティブアクション訴訟のスポンサーも保守系大金持ちだったし。
最後にハイエクの引用でビデオは終わっています。「人々は、自分たちが設計できると信じているものについて、実はほとんど何も知らないのだ」と。そこで最後に出てくるのが、オバマ大統領の顔(下写真)。オバマ政権が導入する医療保険制度のことをimplyしてるのだろう。