「実験社会科学-実験が切り開く21世紀の社会科学」というカンファレンスで発表してきました。2日半のプログラムで、経済学・心理学を中心に8人の先生方が報告。そのなかで私は、アメリカの「IRB」という実験研究における被験者保護の手続きについて説明しました。参加者は50名ぐらいだったと思います。
IRB(Institutaional Review Boardの略)は、実験研究計画を事前に審査する内部委員会のことで、日本でいう「倫理委員会」みたいなものでしょう。人間を対象とする研究(人文・社会科学も含む)をするほとんどの大学に設置されています。被験者を含む研究は、ひとつひとつ全てIRBの事前審査を通過しなければなりません。IRBは詳細で具体的な研究計画を要求し、計画書だけでも数十ページになることもあります。そして、審査基準がまた極めて厳しい。被験者に危害がおよぶ可能性が少しでもあれば、それに対する処置が厳格に求められます。
私の報告では、現在の運用事情を紹介した上で、この制度の悲しく恐ろしい歴史的背景(タスキーギ梅毒研究、アイヒマン実験など)を説明しました。1960年代のアメリカでも、同意も得ないままに研究目的で肝炎ウイルスを人に注射したり、サルの腎臓を人に移植したりと、被験者の人権を無視した人体実験が数多くなされていました。こうした事件の反省を受けて導入されたのがIRBだったわけです。社会科学でなされるインタビュー調査や経済実験などのように、被験者・協力者に身体的危害が及びそうにない研究でも、プライバシー侵害や被験者の不利益となる場合があります。たとえば、職場の上司にアンケート内容が間接的にでも知られてしまう状況などは許されません。こういうわけで人文・社会科学の研究にも、IRBの厳格な審査が要求されています。最近は、これが研究者を悩ませています。
この「実験社会科学」は文部科学省の特定領域研究に選ばれており、会場は、中心メンバーの1人の山岸俊男先生がいらっしゃる北海道大学でした。札幌市内では22日から始まったライトアップがきれいです。
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