2010年8月11日

時間選好の論文が Games and Economic Behaviorに

時間選好の実験論文が、Games and Economic Behavior に載ります。タイトルは"Non-parametric test of time consistency: Present bias and future bias"です。

私の論文は、ほぼすべての時間選好モデルが暗黙に前提としている条件を指摘して、その解決方法を提案したもの。さらに、非合理的な行動としてよく知られている「現在バイアス」だけでなく、「"未来"バイアス」もある可能性を実験によって確かめ、時間割引関数が逆S字カーブを描くこと示した(ええと、画期的なものだろう)。内容を以下に紹介します。

将来時点 t において得られる利益 x の現在割引価値を考えるときに、PV(x,t)=D(t)u(x) とおくことが多いのだけど、ここで2つの暗黙の仮定がおかれている。ひとつは、そもそもDとuが分離している点。将来利益 x から得られる効用をu(x)として、それを時間で割り引いてD(t)u(x)が現在価値というモデル化が一般的だけど、実際は必ずしもそうとは限らない: t と x が相互に影響しあってその現在価値が決まってくるかもしれない。もしt と x が相互に影響しあうなら、 Dの形状(指数割引か双曲割引か)だけを独立に推定しても、結論は意味をもたない。

2つ目の仮定は、経済実験で非常に多いのだけど、u(x)の部分を u(x)=x と線形だと見なしてしまうところ。これはもう大問題で、Dの形状推定が全然意味を持たない。最近、ようやく問題だと認識されてきたよう、リスク選好と合わせて、時間選好を推定するやり方がとられてきた。

以上の問題への解決策として、私のuniqueなアイディアは以下のとおり。


大小の2つの利得 x<yについて、equivalent delay 期間である T(x,y) をあぶりだす。いま x をもらうことと、T(x,y)の間だけ待ってから y をもらうことが同じになるような期間だ。

この T がsubmodular(たとえばconcave)だと現在バイアスと同値であり、supermodular(たとえばconvex)だと未来バイアスとなることをまず示した。そして、Tのあぶり出しとmodularityの決定は、ノンパラメトリックであるのが強力。この方法は、上に書いた問題をうまくクリアしながら、時間選好の推計を可能にしている点で新しい。

さらに、uの形状とは独立に、Dの形状を推定することもやっています。実験結果などは、Games and Economic Behaviorで論文をお読みいただくか、入手困難な場合は私にコンタクトしてください。