『実験社会科学 サマースクール 2010』で、一番はじめのレクチャーを担当させていただきました。タイトルは、「社会科学における実験の意義」と大風呂敷を広げたので、今回は、壊血病の話をすることにしました。壊血病はビタミンCが不足すると発症し、血管がぼろぼろになってあっという間に死んでしまう恐ろしい病気です。
大航海時代に、長い航海の間に船員の多くがこの病気にかかったそうです。ただし、オランダの東インド会社所属の船乗りたちは、新鮮な野菜が壊血病に効くことを経験的に知っていました。
ところが、その知恵がなかなかシェアされない! オランダ海軍にも伝わらないほど。以降、人類の壊血病とのながいながい戦いがはじまるわけです。いろいろな実験をしてみるのですが、実験デザインが稚拙であったり、思い込みでデータを解釈したり。「新鮮な野菜」というごく簡単な答えを得ることができず、何世紀もずーっと、壊血病の原因をさがしさまよう歴史をすこしお話しました。いわく、湿気だ、熱気だ、伝染病だ、腐った肉だ、はたまた、便秘だ、といろいろさまようわけです。モルモット実験をした結果、野菜の繊維不足がもたらす(おしい!)便秘が原因、下剤をのませよ。だとか。答えを知っているわれわれからみれば滑稽ですが、当の本人たちは至極真剣。それでも多数の死者が出続けたのでした。
社会科学でもようやく実験という手法の有効性が認められてきた。でも同じ跌を踏むなかれ。物質として存在するビタミンCでさえ捕まえるのに多くの失敗が必要だった。ましてや社会科学で一夜にして夢がかなうと思うな。地道にやろうというメッセージです。
(松本城すばらしかった)